オペアンプを使ったアクティブフィルタの特性について、計算式など並べてわかった気になったので、実際に回路を組み立てて出力を観察してみようと思います。
ホワイトノイズとローパスフィルタ
パッシブフィルタでもやったように、まずはホワイトノイズをローパスフィルタに入力して出力を観察してみます。
ホワイトノイズ発生回路とローパスフィルタ回路
図 1. は、実験を行なったホワイトノイズ発生回路と、オペアンプ LM358 を使ったローパスフィルタ回路です。

ホワイトノイズ発生回路
図 1. の左側部分は、テスト用のホワイトノイズ発生回路です。トランジスタ Q101 のエミッタベース間に 12V の電圧をかけることでノイズが発生します。Q102 で増幅し、Q103 のバッファを通してホワイトノイズを出力します。
ちなみに、エミッタフォロワの出力インピーダンス Zo は、
Ri = R103//RV101 = 4.7//10 = 3.2 [KΩ]
Zo = (Ri/hfe+0.026/IC)//R104 = (3200/200+0.026/0.003)//1000 = 24 [Ω]
かなり大雑把な計算ですが、まぁこんなもんでしょう。
ん? Q103 のコレクタが +5V だけど、ベースは 8V まで上がるよ。ま、壊れることもないか (;´Д`)
ローパスフィルタ回路 (反転増幅回路)
図 1. の右側、一点鎖線で囲った部分がローパスフィルタ回路です。反転増幅回路のフィードバック抵抗 R2 にコンデンサ C2 が並列に接続されています。カットオフ周波数 fC2 は、
fC2 = 1/(2π・C2R2) = 1/(2π×1×10-9×22×103) = 7234 [Hz]
反転増幅回路の増幅率が 0dB なので、カットオフ周波数 fC2 でのゲインは -3dB となります。
以下、反転増幅回路についての計算です。
コンデンサ C2 を無視したときの増幅率 G は、
G = 20log(R2/R1) = 20log(22/22) = 0 [dB]
入力コンデンサ C1 は R1 とハイパスフィルタを形成します。カットオフ周波数 fC1 は、
fC1 = 1/(2π・C1R1) = 1/(2π×10×10-6×22×103) = 0.72 [Hz]
オペアンプ LM358 は単電源で使用しますのでバイアス電圧 VB が必要です。
VB = VCC・R4/(R3+R4) = 5×22/(47+22) = 1.59 [V]
コンデンサ C3 はバイアス電圧の AC パスで、R3、R4 とハイパスフィルタを形成します。カットオフ周波数 fC3 は、
RB = R3//R4 = 47//22 = 15.0 [KΩ]
fC3 = 1/(2π・C3RB) = 1/(2π×220×10-6×15.0×103) = 0.048 [Hz]
fC1 の 1/10 以下なので十分でしょう。また、RB は R2 と等しくしますが、まぁたいだい同じってことで。
出力コンデンサ C4 は負荷抵抗 R6 とハイパスフィルタを形成します。カットオフ周波数 fC4 は、
fC4 = 1/(2π・C4R6) = 1/(2π×22×10-6×10×103) = 0.72 [Hz]
オペアンプ LM358 の出力段は B 級増幅なので、出力がシンク電流になるとクロスオーバー歪を生じます。そのため、R5 により常にソース電流を流して A 級動作させます。オペアンプの出力電圧は VB と等しいので、出力電流 IO は、
IO = VB/R5 = 1.59/10 = 0.16 [mA]
信号の最大出力電圧を vo=0.5[V] とすると最大出力電流 io は、
Ro = R5//R6 = 10//10 = 5 [KΩ]
io = vo/RO = 0.5/5 = 0.1 [mA]
IO より小さいので、クロスオーバー歪は生じません。
なお、回路図に描いてありませんが、LM358 の空き回路 (U1B) はボルテージフォロワとして、電源電圧の半分の電圧を入力しておきましょう。電源電圧は +5V です。電源端子にはパスコン 0.1μF もお忘れなく。
入出力波形
図 2. の黄色がホワイトノイズの入力波形です。パッシブフィルタのときと違って、 0V 付近の波形が直線のままです。フィルタ回路の入力インピーダンスが高いので、前段が影響を受けないためでしょう。
青色が出力波形で、高域のヒゲが消えています。こちらもパッシブフィルタのときよりきれいな波形になっています。ま、ホワイトノイズで “きれいな” はないかな。
図 3. は、ローパスフィルタ回路からコンデンサ C2 を外した、つまり普通の反転増幅回路としたときの出力を FFT 演算した結果です。
反転増幅回路の増幅率が 0dB なので周波数特性はフラットになると思っていたのですが、少しずつ減衰しているみたいです。これは “理想と現実” というやつでしょうか?
ゲイン
図 4. は、コンデンサ C2 を取り付けたローパスフィルタ回路の出力を FFT 演算した結果です。
150KHz あたりまで大きく減衰し、200KHz で -25dB になりました。
これは過去記事で観察したパッシブフィルタのときとほぼ同じです。計算した周波数特性ともほぼ一致しているって思ってるんですけど?
正弦波とローパスフィルタ
正弦波をローパスフィルタに入力し、出力を観察してみます。
正弦波発生回路とローパスフィルタ回路
図 5. は、テスト用の正弦波発生回路と、オペアンプ LM358 を使ったローパスフィルタ回路です。

正弦波発生回路
図 5. の左側部分が正弦波発生回路、おなじみのツイン T 形正弦波発振回路です。
この回路はノッチフィルタを通して正帰還をかける発振回路です。抵抗を R=R111=R112 、RV111=R/2 に、コンデンサを C=C111=C113、C112=2・C の関係にします。このときの発振周波数 fs は、
fs = 1/(2π・CR) = 1/(2π×10×10-9×2.2×103) = 7234 [Hz]
です。つまりまぁノッチフィルタのノッチ周波数が発振周波数になる、ってことですが、発振させるには少しバランスを崩してやる必要があるようです。
RV111 はボリュームにして発振周波数の調整を行ないます。R/2 は 1.1KΩ なので、手持ちの 5KΩ を使いました。C112 は 2・C なので 20nF ですが、ちょっと大きくしないとうまく発振しないことが多いです。カットアンドトライで、今回は 47nF にしています。
出力は Q111 のコレクタから取り出しました。コレクタから取り出すと大きな信号電圧が得られますが、波形が歪みます。R111 と R112 の接続点から取り出すと波形はきれいになりますが、出力は小さくなります。
トランジスタ Q112 は出力バッファで、基本的に図 1. と同じ回路です。右側の一点鎖線で囲った部分がローパスフィルタ、これも図 1. と同じです。
入出力波形
図 6. の黄色は正弦波の入力波形です。ツイン T 形正弦波発振回路のコレクタ側の波形ですので歪があります。
青色が出力波形です。歪の原因となる高調波がカットされるので、波形がきれいになっています。パッシブフィルタのときと同じですね。
周波数は 7.19KHz で、ほぼカットオフ周波数です。減衰率は -4.1dB、これもパッシブフィルタと同じですが、減衰率が大きめなのは波形の歪のせいでしょうか。入力 1.5VP-P、出力 1.1VP-P で計算すると -2.7dB になります。
図 7. は、コンデンサ C2 を外した反転増幅回路の出力を FFT 演算した結果です。
基本波 (7.14KHz) は -6dBV で、第 2 高調波が -22dBV、第 3、4、5 高調波が -32dBV、-36dBV、-40dBV としっかり見えています。
VIN = 0.82[V]、VOUT = 0.72[V] なので増幅率は -1.1dB ですが、まぁほぼ 0dB ということで。
ゲイン
図 8. は、ローパスフィルタの出力を FFT 演算した結果です。
基本波が -8dBV、第 2 高調波が -31dBV、第 3、4 高調波が -42dBV、-50dBV です。
つまり、減衰量では第 2 高調波が -9dBV、第 4 高調波が -14dBV なので -5dB/oct になる。理論値は -6dB/oct ですから、ほぼ一致している? よね?
位相
図 9. は、ローパスフィルタの入出力をリサージュ図で表示した結果です。
オシロスコープのカーソル機能を使って図形の大きさを測ってみました。結果、AY=0.51[V]、BY=0.36[V] でしたので、位相差 θd は、
θd = ±sin-1(BY/AY)
= ±sin-1(0.36/0.51) = ±45°
リサージュ図の主軸が第 2 象限と第 4 象限にあるので、出力電圧の位相角 θ は 90°≦θ≦270° の範囲、つまり θ=135° , 225° です。また、ローパスフィルタの位相角の範囲は 90°<θ≦180° (前回記事参照) ですから、位相角は θ=135° となります。これは 45° 遅れた出力電圧が反転している、ということです。
図 6. でみると、周期 139μs で出力電圧は 55μs 先行しています。したがって θ=142° で、ほぼ同じ結果になりました。
ホワイトノイズとハイパスフィルタ
次は、ホワイトノイズをハイパスフィルタに入力して、出力を観察してみます。
ホワイトノイズ発生回路とハイパスフィルタ回路
図 10. は、実験を行なったホワイトノイズ発生回路と、オペアンプ LM358 を使ったハイパスフィルタ回路です。

ハイパスフィルタ回路
ホワイトノイズ発生回路は図 1. と同じです。図 10. 右側の一点鎖線で囲った部分がハイパスフィルタ回路です。反転増幅回路としては基本的に図 1. と変わりありませんが、負帰還回路のコンデンサ C2 がなくなり、カットオフ周波数 fC1 は入力カップリングコンデンサ C1 と入力抵抗 R1 とで定められます。
fC1 = 1/(2π・C1R1) = 1/(2π×1×10-9×22×103) = 7234 [Hz]
反転増幅回路の増幅率は 0dB です。カットオフ周波数におけるゲインは -3dB です。
入出力波形
図 11. の黄色がホワイトノイズの入力波形です。ローパスフィルタのときと変わりありません。
青色が出力波形で、高い周波数成分が出ているように見えます。
最大電圧の比は -14dB ですが、減衰率の平均値ぐらいに考えればよいでしょうか? 普通の反転増幅回路で 200KHz あたりの減衰率に相当しています (図 3. 参照)。
ゲイン
図 12. は、ハイパスフィルタ回路の出力を FFT 演算した結果です。
この FFT 演算結果は、普通の反転増幅回路で測定した図 3. とほとんど変わりない感じです。表示されている周波数帯は通過領域ですから当たり前の話。でも、センター周波数を下げてみても、7KHz 以下が減衰しているといった結果は得られませんでした。測定方法が間違ってる、かも?です。
正弦波とハイパスフィルタ
最後に、ハイパスフィルタ回路に正弦波を入力して、出力を観察してみましょう。
正弦波発生回路とハイパスフィルタ回路
図 13. が正弦波発生回路と、オペアンプ LM358 を使ったハイパスフィルタ回路です。これまで実験してきた回路と同じものを組み合わせています。ハイパスフィルタのカットオフ周波数は 7234Hz です。

入出力波形
図 14. の黄色が正弦波の入力波形、青色が出力波形です。
波形の歪の原因になる高調波はカットされませんので、出力波形も歪んでいます。入力よりもさらに歪んでいる感じです。減衰率は VP-P で測定して -2.4dB です。理論値は -3dB ですから、だいたいそんなもん、ですかね。
ゲイン
図 15. は、ハイパスフィルタの出力を FFT 演算した結果です。
基本波が 7.69KHz とちょっと高くなっちゃってますが、まぁ大勢に影響はない、ことにしてくださいませ。
基本波が -8dBV、第 2 高調波が -24dBV、第 3 高調波以上が -30dBV、-35dBV、-40dBV と、反転増幅回路の場合 (図 7) とほぼ同じレベルで通過していることがわかります。
ここでもローカットの効果はよくわかりませんが、ハイパスであることは間違いないです。
位相
図 16. は、ハイパスフィルタの入出力をリサージュ図で表示した結果です。
AY=0.66[V]、BY=0.40[V] より位相差 θd は、
θd = ±sin-1(BY/AY)
= ±sin-1(0.40/0.66) = ±37°
リサージュ図の主軸が第 2 象限と第 4 象限にあるので位相角 θ は 90°≦θ≦270° の範囲です。また、ハイパスフィルタの位相角は 180°≦θ<270° の範囲です (前回記事参照)。したがって、位相角 θ=217° となります。これは 37° 進んだ出力電圧が反転しているとみることができます。
図 14. でみると周期 139μs で出力電圧が 86μs 先行していますので θ=223° となり、ほぼ同じ結果です。
後記
今回は、オペアンプ LM358 を使ったアクティブフィルタにホワイトノイズと正弦波を入力し、出力を観察してみました。パッシブフィルタのときと同様に雑でテキトーな実験なので、結果はまぁ、なんとも言えないです。入力インピーダンスが高いので前段に影響を及ぼさないのは良いかもしれないね、ってぐらいの気分です。
それはそれとして、このアクティブフィルタは反転増幅器ですので、出力を音として聞いてみました。
コンデンサ C2 を取り外した普通の反転増幅器としてホワイトノイズを聞くと、ノイズが歪んで聞こえます。ノイズが歪むっておかしな話ですけど、入力はきれいなホワイトノイズに聞こえるのですが、出力は、なんというか、ボソボソ鳴っていてきれいじゃない。そこで C2 を取り付けてローパスフィルタにすると、高域は減衰していますがきれいなノイズに聞こえました。もちろんハイパスフィルタでは、同じように歪んで聞こえます。
高域がちゃんと増幅できていないのかと思い、音楽を聞いてみました。が、特に問題なく高域もでています。歪は感じられません。じじぃの俺の耳でわかる程度ですが、十分使えるアンプになっています。フィルタの効果も実感できました。
パッシブフィルタのホワイトノイズ出力を聞いたときには感じなかったことなので、やはりオペアンプが影響しているのでしょう。オペアンプを使ったアクティブフィルタでは、増幅回路の性能がフィルタに影響を与えるかもしれない。決しておかしな話ではないですね。いや逆に、アンプとして使うときは負帰還回路にコンデンサを入れないといけない、ってことですか?
頭の片隅に置いておきたいと思います。