自宅屋外に設置するためのアマチュア無線 144MHz 帯の垂直ダイポールアンテナを製作します。
現状は、電線で作ったダイポールアンテナを室内に張ってあります。過去記事の一連を参照ください。
ダイポールアンテナは基本中の基本なんですが、じゃあしっかり作ってみたことあるかってゆーと、ないです。昔は SWR 計すらなかなか買えなかったけど、今は NanoVNA なんていう便利な測定器が簡単に手に入る。基本的なことを勉強しつつ、でも難しい理論や計算は横に置いといて、実際に使えるアンテナになるように、なるかな、なったらいいな、やってみましょう。
MMANA で設計する
使い方の復習も兼ねて MMANA で基本的な計算をしておきましょう。過去記事でもやってますので参照ください。
アンテナ定義 (図1) です。一本の垂直なエレメントを立てて、その中央から給電する、だけです。エレメントは Φ12 のアルミパイプを使う予定なので半径 R=6mm としています。
これで計算を行なう (図2) と、周波数 145.0MHz でエレメント長は 0.98m となりました。計算条件は、室内で調整することとしてリアルグランドの地上高 1m としてありますが、まぁ自由空間でも大差ないです。
アンテナのインピーダンスは ZL=67.6-j0.30[Ω] になりました。同軸ケーブルの特性インピーダンスを ZO=50[Ω] とすると反射係数 Γ は、
Γ = (ZL-ZO) / (ZL+ZO) = 0.15-j0.00
反射係数の計算は Mr.Smith を利用しました。
アンテナの製作
ということで、写真1 のような垂直ダイポールアンテナを作ってみました。
給電部はプラスチック防水ボックスに収納します。エレメントは Φ12 のアルミパイプで、ケーブルグランドでボックスに取り付けました。同軸ケーブルもケーブルグランドを使って通します。エレメントの先端部分は Φ9 のアルミパイプで、先端を切断したタッピンネジ 2 本で固定し長さを調整できるようにしてあります。
ボックス内は VP13 塩ビ管を使ってアルミパイプを固定しました。VP 管の固定金具はアルミ板を加工して作っています。取付板に MDF を使っていますが、MDF は湿気に弱いのでうまくないかもしれません。
防水ボックスは U ボルトで HIVP20 塩ビ管に取り付けています。HIVP 管はアンテナマストから横に張り出すためのものですが、ちょっと強度が気になる部分です。
ちなみに、部材の主な調達先は AliExpress とモノタロウとホームセンターです。細かなものはジャンクボックスや物置にあった端材などを利用しています。
アンテナの調整
写真1 の HIVP 管の左端にのっているのは NanoVNA で、給電点に BNC レセプタクルを仮り付けして NanoVNA のピグテール (SMA-BNC) を接続しています。NanoVNA は中心周波数を 145.0MHz、スパンを 40.0MHz としてキャリブレーションします。トレースは PHASE と SMITH を表示させてみました。
アンテナの共振周波数
測定値 (図3) が容量領域から誘導領域へ変わる点がアンテナの共振周波数で、エレメント長が 0.98m のとき約 151MHz でした。インピーダンスは 49.5-j18.8Ω (145.0MHz) です。
共振周波数が高く容量性なのでエレメントを伸ばしてみましたが、λ/2 の 1.03m を超えても調整しきれませんでした。
ただ、この状態はまわりで人がちょっと動くだけでも敏感に影響を受けます。インピーダンスが小さくなるのは過去記事と同じですが、エレメントがやたら長くなるのは、ちょっとおかしいです。
で、ふと思いついたこと、もしかして平衡/不平衡に関係してる? んじゃないのかな?
フェライトコアを取り付けてみる
アンテナの「平衡/不平衡」問題ってのは、ダイポールアンテナが平衡型回路であるのに対して同軸ケーブルが不平衡型線路で、それを直接つないだときにおきる不具合。平衡型と不平衡型を直接つなぐとコモンモード電圧が発生し、結果的にアンテナのインピーダンスが小さくみえてしまう。そのためにダイポールアンテナにはバラン (Balun) が必要になる、と。
とりあえずフロートバラン的なものとして、NanoVNA のピグテールに小さなフェライトコアを取り付けてみました (写真2)。
NanoVNA で簡単に測定した結果では、このフェライトコアのコモンモード損失は 145.0MHz で -8dB ほどでした。フロートバランは -40dB 以上のアイソレーションが必要らしいのでまったく不十分ですが、なにか変化があれば平衡/不平衡が関連していると想像できるんじゃないか、と。
結果、図4 のようにアンテナのインピーダンスが 71.3-j1.93Ω になりました。反射係数は 0.18-j0.01 です。
また、近くで人が動いてもあまり影響を受けなくなりました。
エレメント長、インピーダンスともに MMANA の計算結果に近くなったことで、この測定値のほうを信じたい気持ちになりますねぇ。
じつは、図3 では位相転換点が明確に現れていますが、再現性が悪く、測定する日によって図4 のようになだらかになるときもありました。何が影響しているのか、よくわかりません。この位相の表示自体もちょっとピンとこないです。が、フェライトコアを取り付けると比較的安定します。これはこれで、まぁいいのではないでしょうか?
ということで、145.0MHz でエレメント長 0.98m に暫定決定しました。もちろんフェライトコア付き、です。
λ/2 長の同軸ケーブルを接続してみる
防水ボックスにレセプタクルを取り付けることも考えたのですが、防水処理がうまくできそうにないです。なので、ケーブルグランドをつけて同軸ケーブルを通すことにしましたが、調整測定時の影響が小さくなるように同軸ケーブルの長さを λ/2 にしましょう。
同軸ケーブルは 5D-2V も用意してあるのですが、まだ変更することもあると思うので当面は RG58A/U を使います。波長短縮率が 67% なので λ/2 は 69cm、エレメント接続部の 3cm をプラスした 72cm の BNC コネクタ付きケーブルを製作しました。エレメント接続部はハンダ付けした Y 型圧着端子をタッピンビスで止めています。接触不良とか強度とか、気になるところですが。(写真3)
λ/2 長の同軸ケーブル端で測定した結果が図5 です。インピーダンス 84.0+j0.73Ω、反射係数 0.25+j0.00 でした。
145.0MHz 付近で軌跡が 小さく回りリアクタンスもほぼ 0Ω なので、ケーブル長の影響はなくなっているんだろうと思います。それなのに、どうしてレジスタンスが増えたんでしょうか? そういえば過去記事でも、なぜかレジスタンスが増えてたんですよねぇ。
それとも、これがアンテナの給電インピーダンス?
…… わかりません。
防水処理など
防水のために、エレメントの先端にビニルキャップ Φ9 を取り付けました (写真4)。先端を絶縁することでコロナ放電電流が抑止され、ノイズを低減する効果もあるそうです。実際に VHF 帯で効果があるかは定かでないのですが、当地は雷も多いし雪や黄砂も降りますから、尖った部分はなくすのが原則です。
エレメントのつなぎ部分はとりあえず雑にビニルテープを巻いていますが、自己融着テーブで仕上げようと思っています。
この状態で、共振周波数やインピーダンスに影響がないかを確認しましたが、問題ないようです。
後記
今回は、自宅の外に設置するための 144MHz 帯の垂直ダイポールアンテナを作り、調整してみました。基本的なアンテナだとはいうものの、いざ作ってみるとわからないことだらけです。
今回測定したことをスミスチャート上でシミュレーションしてみました。図6 は、Mr.Smith にプロットしたマーカーを画像ソフトでつないで作ったチャートです。
赤の軌跡は、周波数 145MHz±20MHz におけるアンテナの給電インピーダンスで、MMANA で計算した値です。NanoVNA での測定では図4 に相当します。測定結果は容量領域の軌跡が下へ垂れ下がったようになっていますが、まぁまぁ似ています、よね。
青の軌跡は、それぞれの周波数において 69cm の同軸ケーブル (50Ω) を接続したときの、同軸ケーブル端からみたインピーダンスです。Mr.Smith で計算しました。図5 と同じように軌跡が回転しています。
同軸ケーブルの長さが λ/2 相当になる 145.0MHz のときに給電インピーダンスの軌跡と重なります。つまり、同軸ケーブルの長さの影響がなくなるということ。もちろんケーブル損失などありますから計算通りとはいきませんが。
ということで、今回の測定の結果がまったくデタラメだってことはなさそうです。が、どうしてこうなるん?とか、もっとこうしたら?とか、いろいろ思いが湧き上がってくるわけで、さらに暗中模索は続きます。