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144MHz帯 垂直ダイポールアンテナ / インピータンス整合

自宅屋外に設置するためのアマチュア無線 144MHz 帯の垂直ダイポールアンテナを製作します。

前回は、ダイポールアンテナを製作し共振周波数の調整などを行ないました。

が、しかし、共振点はどこ?ここ? 給電インピーダンスは?実際どれだけなん?
アンテナ、なぁ〜んもわからん。

暗中模索が続きます。

Mr.Smith によるインピーダンス整合の計算

MMANA で設計したダイポールアンテナの給電インピーダンスは 67.6-j0.30Ω でした。同軸ケーブルの特性インピーダンスは 50Ω です。これらを整合させるインピーダンス変換の計算をしましょう。

インピーダンス変換回路
図1. インピーダンス変換回路

アンテナの給電インピーダンス (負荷) Z2 と同軸ケーブルの特性インピーダンス (電源) Z1 を整合させるために、LC の組み合わせによるインピーダンス変換を行ないます。一般に、インピーダンスの高い方に並列素子を、低い方に直列素子を接続しますので、図1 のようにしました。

インピーダンス変換の計算
図2. インピーダンス変換の計算

この回路のコンデンサとコイルの定数を Mr.Smith で計算します (図2)。中心周波数は 145MHz です。チャートの中心のインピーダンス ZO は 50Ω がデフォルトで、自動的に正規化計算が行われます。

まず、マーカーで負荷インピーダンス (Z2) 67.6-j0.30Ω をプロットします (マーカー 0)。これにキャパシタンス (C1) 9.6pF を並列接続すると 50Ω の等レジスタンス円上にマーカー 1 が生成されます。

図2 はインピーダンスチャートなので表示されていませんが、マーカー 1 は 14.8mS の等コンダクタンス円に沿って移動しています。等コンダクタンス円、等サセプタンス円はアドミタンスチャートに表示されます。ちなみに、インピーダンスチャートとアドミタンスチャートを重ね合わせたものをイミタンスチャートといいます。Mr.Smith ではどのチャートもスケールで表示することができます。

つぎに、インダクタンス (L1) 33nH を直列接続すると 50Ω の等レジスタンス円に沿って移動し、j0Ω の等リアクタンス円との交点にマーカー 2 が生成されます。これで 50Ω (49.9+j0.342Ω) にインピーダンス変換されました。

ちなみに、これは電源から負荷をみたとき 50Ω になっている、ということです。逆に負荷から電源をみたときは、Z1=50Ω にインダクタンス (L1) を直列接続し、つぎにキャパシタンス (C1) を並列接続しますが、このときは Z2(CONJ)=67.6+j0.30Ω へ移動してきます。つまり、負荷から電源をみると Z2=67.6-j0.30Ω の共役複素数 (complex conjugate) になっている。どちらの方向でも「負荷インピーダンスを電源インピーダンスの複素共役に変換する」ことで整合することになります。

ダミー回路によるインピーダンス整合の実験

インピーダンス整合の実験
写真1. インピーダンス整合の実験

ダミーな回路で実験して確かめてみましょう。

ラグ板の切れっ端に BNC レセプタクルを取り付け、100Ω と 150Ω の抵抗を並列にして負荷抵抗 60Ω としました。これがアンテナの給電インピーダンスに相当します。
写真1 にはすでにコンデンサとコイルが付いていますが、ここではまだ抵抗だけを付けています。

負荷抵抗だけのとき
図3. 負荷抵抗だけのとき

負荷抵抗だけ付けた状態で NanoVNA で測定すると、抵抗が 58.8Ω、インダクタンスが 17.3nH でした。配線などの寄生リアクタンスがたっぷりあるようです。

並列にコンデンサを取り付ける
図4. 並列にコンデンサを取り付ける

抵抗に並列にコンデンサ 10pF を取り付けると、抵抗 47.4Ω、キャパシタンス 101pF となりました。等コンダクタンス円に沿って R=50Ω の等レジスタンス円上へ移動してきた、ということです。
正確に 50Ω にのせるには、もうちょっと小さいコンデンサをつけないといけないってことですけど、そううまくはいきません。

直列にコイルを取り付ける
図5. 直列にコイルを取り付ける

カットアンドトライで作ったコイル (直径 5mm 巻数 2) を直列に取り付けて 46.9Ω、0.69nH になりました。ぴったりではありませんが、ほぼ 50Ω に変換できました。

アンテナにインピーダンス整合回路をつける

給電部にラグ版を取り付け
写真2. 給電部にラグ版を取り付け

ダイポールアンテナで、実験と同様にやってみましょう。

まず、レセプタクルだけを付けたラグ版を給電部に取り付けて、給電インピーダンスを確認してみます。

給電インピーダンスの測定
図6. 給電インピーダンスの測定

給電インピーダンスは 82.6+j2.53Ω(*1) です。共振周波数が少し低いようです。
前回の測定では 145.0MHz に共振し、給電インピーダンスが 71.3-j1.93Ω でした。時が流れると調整値も変化していくのですかねぇ。いやいや、このラグ版には寄生リアクタンスがあるのでした。そいつが延長コイルのように働いている、のかも?

(*1) 2024.06.09追記:図6 では 80.4+j5.99Ω と表示されています。誤差の範囲、ということでご勘弁を。
インピーダンス変換の計算
図7. インピーダンス変換の計算

Mr.Smith で計算すると、並列のキャパシタンスが 11pF、直列のインダクタンスが 45nH となりました。

計算値はあくまで参考値。
以下、カットアンドトライでコンデンサとコイルを決めていきます。

並列にコンデンサをつける
図8. 並列にコンデンサをつける

コンデンサ 8pF で 47.3-j34.6Ω へ移動してきました。ちょっとずれてますけど、まぁいい感じです。

直列にコイルをつける
図9. 直列にコイルをつける

さらにコイル (直径 7mm 巻数 2) をつけて 43.8-j0.01Ω になりました。反射係数は -0.07+j0.00です。もう少し調整していけばさらに 50Ω に近づけられそうですが、いまは室内でテストしている段階なので、ここまでにしておきます。
低かった共振周波数が 145.0MHz になっちゃってます。インピーダンス整合回路込みで共振している、ってことでしょうか。

インピーダンス整合回路を取り付け
写真3. インピーダンス整合回路を取り付け

調整後の給電部は写真3 のようになってます。
同軸ケーブルを直接ハンダ付けしようと考えていたのですが、取り外して調整できるようにレセプタクルを残すことにします。なので、同軸ケーブルに BNC プラグを取り付けました。

ちなみに、使っているセラミックコンデンサの耐圧は 50V です。給電インピーダンス 83Ω、空中線電力 10W として単純に計算すると、電圧は最大 41V。耐圧としては限界でしょう。現実にはエレメントに発生する静電気などなどコンデンサには過酷な環境だろうし、もっと耐圧の高いコンデンサにすべきだと思います。
が、俺のリグ IC-2N は送信出力 1.5W なので、今回はこのままにしておきます。壊れるのも経験。すぐにダメになるようだったら対応を考えましょう。

λ/2 同軸ケーブル端での測定

完成した給電部
写真4. 完成した給電部

ということで、給電部は写真 のように出来上がりました。当初思い浮かべていたのとはチョット違っているんですけど、試行錯誤の結果です。

同軸ケーブル端でのインピーダンス
図10. 同軸ケーブル端でのインピーダンス

接続したのは、長さ λ/2 (69cm) の同軸ケーブル RG58A/U です。ジャンク箱にあった小さなフェライトコアを取り付けました。

同軸ケーブル端で測定したインピーダンスは 43.6+j0.39Ωでした。給電点での測定値とほぼ同じです。

同軸ケーブル端での反射係数
図11. 同軸ケーブル端での反射係数

これを反射係数面 (POLAR) で表示させたのが図11 です。反射係数は -0.06+j0.00 でした。
なお、図10 と図11 は表示形式が異なるだけで、軌跡は同じです。

負荷インピーダンス ZL=43.6+j0.39Ω、同軸ケーブルの特性インピーダンス ZO=50Ω とすると、反射係数 Γ と電圧定在波比 VSWR はそれぞれ以下のように計算できます。計算は Mr.Smith で簡単にできます。

Γ = (ZL-ZO) / (ZL+ZO) = {(43.6+j0.39) - 50} / {(43.6+j0.39) + 50} = -0.068+j0.005
VSWR = (1+|Γ|) / (1-|Γ|) = {1 + √(0.0682 + 0.0052)} / {1 - √(0.0682 + 0.0052)} = 1.147

以上で調整完了です。もう少しコンデンサを小さくすることで 50Ω に追い込めそうですが、室内じゃまわりの影響も大きいし、やる価値あるかっていうと、まぁなんとも言えませんねぇ。

日改めて、アンテナを調整してみた

共振周波数を測定する
写真5. 共振周波数を測定する

時は流れ日が過ぎて、アンテナの特性はどう変わったでしょうか? いやぁ、そうそう変わってもらっては困るんですケド。

インピーダンス整合回路を取り外し、BNC レセプタクルだけを取り付けて、エレメントの共振周波数を測定してみました。

エレメント長さの調整前
図12. エレメント長さの調整前

給電インピーダンス 71.3+j17.5Ω、誘導性で、共振点は 140MHz の少し下ぐらいになっています。
図6 の測定でも少し低いようでしたので、これはやっぱり調整し直さないといかんでしょう。

エレメント長さの調整後
図13. エレメント長さの調整後

エレメント長さを 94cm に縮めました。短縮率は 91% です。共振周波数はほぼ 145.0MHz で、給電インピーダンスは 65.9+j1.30Ω になりました。
もうちょっと、と思うかもしれませんが、周囲の影響を受けて測定値は変化します。テキトーに妥協しましょ。

インピーダンス整合回路の調整
写真6. インピーダンス整合回路の調整

インピーダンス整合回路を取り付けます。
コンデンサは 8pF でそのままですが、コイルはグンと引き伸ばしています。作り直すのがベターかもしれません。あぁ、面倒臭がってないで、やるんだよ。こんどね。

インピーダンス整合後
図14. インピーダンス整合後

調整後、145.0MHz 付近で位相グラフが行ったり来たり。ここで共振しているはずなのですが、なんとも難しい。
うまく説明できないけれど、位相表示が ±180° になっているためにこんなグラフになるのかな?

VSWR 表示
図 15. VSWR 表示

見慣れた VSWR で表示するのがわかりやすいですか? 位相転換点付近で VSWR は最も低くなります。
インピーダンスは 46.7+j0.70Ω です。コンデンサが 8pF のままなのでちょっとレジスタンスが小さくなっています。コイルの調整でリアクタンスをほぼ j0Ω にもってきました。反射係数は -0.03+j0.00、VSWR は 1.07 です。

調整終了
写真7. 調整終了

給電点での調整が終わったので、λ/2 長の同軸ケーブルを取り付けました。

同軸ケーブル端でのインピーダンス
図16. 同軸ケーブル端でのインピーダンス

同軸ケーブル端で測定すると、マーカ位置が少し上にずれました。これは、図15 のマーカー位置から ZO (チャートの中心) を中心に時計方向へ 1回転し、さらに 90° ほど進んでいる、のではないかと考えています。
同軸ケーブル端からみたインピーダンスの変化については過去記事を参照ください。

同軸ケーブル端での反射係数
図17. 同軸ケーブル端での反射係数

インピーダンスは 47.9+j4.76Ωでした。反射係数にすると -0.02+j0.05 ですが、測定値では -0.07+j0.08 です。測定のタイミングが違うので測定値も異なっていますが、誤差、ということで。
でも、過日の測定 (図10) では、同軸ケーブル端でも給電点とほぼ同じ位置になったのに、なぜでしょう? これも、誤差?

送信機から見た反射係数
図18. 送信機から見た反射係数

図18 は送信機からみた反射係数面です。反射係数は -0.04+j0.18 でした。同軸ケーブルの長さは全体で 4.0λ (5.5m) なのでマーカー位置は同じになるべきですが、さらに少しずれています。
でも、反射係数が絶対値 0.2 の円内に収まっているので、俺的には満足な値です。測定誤差とかケーブル長の誤差とかだと考えておいたほうが、心穏やかに過ごせますね。

後記

今回は、垂直ダイポールアンテナのインピーダンス整合をやってみました。

λ/2 長の同軸ケーブル端での反射係数は、前回が 0.25+j0.00、整合後は -0.02+j0.05 です。進歩しました、よね?
アンテナの給電点でインピーダンスが整合していれば、同軸ケーブルの長さがどうであろうと反射係数面では小さな円を描きます。小さな円は VSWR が低いことを示します。当然といえば当然なのですが、改めて納得です。そして、共振点やインピーダンスが NanoVNA で簡単に測定できるのも、便利になっただけじゃなくてとても勉強になりました。

さて、作った垂直ダイポールアンテナはまだ室内にありますが、一言で評価すると「耳が良くなった」です。S メータもないので定量的な比較ができないのですが、これまで M3~4 でノイズ混じりに聞こえていた数局が M5 でクリアに入るようになりました。その存在すら確認できなかった数局が M1~2 で届いています。もちろん、このダイポールアンテナが高性能なのではありません。これまで使っていたアンテナが粗悪だったということで、調整することの大切さを感じています。

では、そろそろ外にこのアンテナを設置する準備を進めましょう。

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