先月 (2024年6月) 中旬に設置した垂直ダイポールアンテナですが、設置後 3 週間の間に 2 回の大雨に見舞われて状態が大きく変わってしまいました。
原因は同軸ケーブルの中継コネクタへ雨水が浸潤したためです。(図 1)
自己融着テープを使うつもりでしたが、しばらくしたら再確認のために外さないといけないだろうとビニルテープを巻いておいたんです。でも一重では不十分だったかな。いやぁ、それなりにきちんと巻いたつもりなんですけど、あまりに強い雨だったし、ねぇ。ドンマイ。
今回は、原因調査のために垂直ダイポールアンテナを取り外し点検、再調整した顛末です。合わせて、スミスチャートによるインピーダンス測定値の補正をやってみましょう。
アンテナの状況の変化
設置直後
図 2 は、アンテナの設置直後に送信機側で測定したトレースです。インピーダンスは 49.0+j5.9Ω でした。位相を測定していませんが Mr.Smith で換算すると 96.20° になります。
同軸ケーブルの長さは 14.1λ (19.5m) ですから、これを反時計方向に 72° 回転(*1)させれば給電点のインピーダンスになるはず。ケーブル損失は無視しますよ。
Mr.Smith で反射係数 Γ を求めると -0.006526+j0.059984 です。反射係数の絶対値 |Γ| は、
|Γ| = √(-0.0065262 + 0.0599842) = 0.060338
位相角は 96.20° で、これを 72° 進めると 168.2° です。絶対値と角度を Mr.Smith の Maker/Refrection Coefficient に入力して、インピーダンスに換算すると 44.41+j1.10Ω となりました。これが給電点インピーダンスの計算値です。
設置翌日
図 3 は、設置翌日のトレースです。測定スパンを 4.00MHz に変更し、スミスチャートと位相 PHASE を表示しました。
インピーダンスは 51.6+j5.68Ω、位相角は 70.473° になっています。1日でようすが変わってしまったように見えますが、まぁ誤差の内じゃないでしょうか。
給電点インピーダンスを求めてみましょう。今度は Mr.Smith でもっと簡単に計算する方法です。
同軸ケーブルの長さは 14.1λ です。14.0λ ならインピーダンスに影響を与えませんから、0.1λ だけ戻してやればよいわけです。
まず Marker/R+jX で送信機側のインピーダンス 51.6+j5.68Ω をプロットします。つぎに Connect/Transmission Line/by wave length に -0.1λ を入力します。するとマーカーは 45.459+j3.1720Ω へ移動しました。これが算出された給電点インピーダンスです。(図 4)
もちろんこの方法は同軸ケーブルの長さを入力することでも可能です。その場合は誘電率 ε = 2.23 (短縮率 0.67 のとき) を Dielectric constant に設定しておいてください。
設置 9日目 / 大雨の後
設置 9日目、前夜はやや強い雨が降りました。送信機側で測定したインピーダンスは 47.1-j8.17Ω、位相角 -104.426° と大きく変化しました。(図 5)
給電点のインピーダンスを求めると 57.8-j5.59Ω になります。しかし、VSWR にすると 1.20 ですから、これも誤差の内?
いやいや、VSWR ではわからない「何か」が起きているようです。
設置 17日目 / 2 度目の大雨の後
前夜はかなり強い雨でした。送信機側のインピーダンスは 30.0-j9.23Ω、位相角は -148.575° になり、軌跡の円も大きくなってしまいました。(図 6)
給電点のインピーダンスは 48.8-j28.1Ω です。さすがに VSWR も 1.75 にはね上がり、異常というよりほか、ないです。
図 7 は、Mr.Smith で補正したインピーダンスチャートです。Marker0 が送信機側のインピーダンス、Marker1 が給電点のインピーダンスです。
給電点インピーダンスは 50Ω の等レジスタンス円に乗ってはいますが、かなり容量性で、まるで LC 整合回路のコイルがショートしたかのように見えます。
その後数日観察を続けましたが、天候が回復しても状況は戻りません。アンテナの点検が必要なようです。
アンテナの点検と再調整
垂直ダイポールアンテナを取り外し、室内で点検と再調整を行ないました。
アンテナの外観など特に問題はなさそうです。給電部やエレメントの接合部も異常は認められません。
図 8 は、1/2λ 長の同軸ケーブル端で測定したトレースです。
インピーダンスは 51.9-j71.0Ω で、図7 のスミスチャートで求めた結果と同じ傾向を示していますが、リアクタンスがさらに大きくなっています。
図 9 は、整合回路を取り外し、アンテナエレメントを測定したトレースです。
インピーダンスが 92.4-j5.78Ω ととても大きな値になっていますが、なんだか共振点にいる?みたい? なんともいえない状況です。
あ、左端に表示されている「c0」が小文字ですね。
キャリブレーションの表示が小文字なのは、周波数スパンを変更したのにキャリブレーションしてないことを示しています。これはちょっとあてにならないトレースです。
でもまぁ、とにかく整合させればよいわけですから、気にしないでおきましょう。
図 10 は、整合回路を取り付け、給電点で測定したトレースです。
これは 1/2λ 長の同軸ケーブル端で測定した図 8 と同じようなトレースになるべきなのですが、リアクタンスが小さくなっています。なぜでしょう?
測定を繰り返してみて気づいたのですが、どうも BNC コネクタが接触不良を起こしているみたいです。
図 7、図 8、図 10 のマーカーは 50Ω の等レジスタンス円上を移動している。これは直列素子がつながったときの動き。あ、接触不良箇所がコンデンサのような振る舞いをしているとしたら ……
RG58A/U に取り付けた BNC コネクタと中継コネクタに、錆様の汚れをみつけました。ビニルテープでの防水だったので、雨水が浸潤したようです。これは交換しないといけません。5D-2V 側のコネクタも交換すべきかもしれませんが、外見は異常ないようですし、トーコネのコネクタは高いので (;´Д`) このまま様子をみましょう。
コネクタ交換後の 1/2λ 長の同軸ケーブルの実測した長さは 0.685m (0.494λ) でした。
整合回路のコンデンサはもう少し小さくしないといけませんが、とりあえず 8pF のままで。コイルは 6mmΦ 3T に交換しました。
再調整後、1/2λ 長の同軸ケーブル端から測定したインピーダンスは 40.7-j0.00828Ω です。(図 11)
アンテナの再設置
点検調整を終えて、垂直ダイポールアンテナを再設置しました。ビニルテープで処理してあったエレメントの接合部と中継コネクタ部は、自己融着テープでしっかり防水しました。
送信機側で測定したインピーダンスは 58.8-j1.96Ω です。(図 12)
同軸ケーブルの長さをこれまでと同じ 14.1λ とすると、給電点のインピーダンスは 53.7+j7.80Ω、VSWR で 1.18 となりました。
これでまたしばらく様子をみていきたいと思います。
Mr.Smith と Electrical Delay の比較
送信機側でアンテナの給電点のインピーダンスを測定する方法として、前回は NanoVNA の Elecrtical Delay を設定する方法を試してみました。
この方法は同軸ケーブルの長さによる伝送遅延時間によって位相のズレを補正するわけですから、スミスチャート上で反射係数を反転させるのと同じことです。したがって、両者の結果は同じになるはず。確認してみました。
図 13 は、点検後のある日のアンテナを送信機側で測定したトレースです。
んん、ちょっと軌跡円が大きくなってる、かな。インピーダンスは 62.4+j8.22Ω、VSWR は 1.304 ∠29.304° です。
同軸ケーブルの長さを再確認しておきます。(図 14)
給電点までの長さは 19.6m でした。同軸ケーブルの短縮率は 67% なので 145.00MHz で 14.139λ に相当します。長さの分解能は 0.4m でしたので、19.6m ±0.2m と考えればよいでしょう。波長では 14.139 ±0.144λ です。けっこう誤差、大きいです。
Mr.Smith にプロットしました。(図 15)
送信機側のインピーダンス 62.4+j8.22Ω をプロットし 0.139λ 反時計方向へ回転させると、給電点インピーダンスは 41.438+j8.5837Ω となりました。VSWR は 1.304∠129.5° です。
NanoVNA に Electrical Delay を入力して測定します。(図 16)
同軸ケーブルの長さは 19.6m ですので伝送時間は 97.5ns、往復の時間 195ns を DISPLAY/SCALE/ELECTRICAL DELAY に入力します。DISPLAY/TRANSFORM/VELOCITY FACTOR に同軸ケーブルの短縮率 67 を入力することも忘れずに。
給電点インピーダンスは 41.5+j8.78Ω と表示されました。位相角は 128.343° で、Mr.Smith で換算した VSWR は 1.306∠128.5° でした。
スミスチャートで求めたインピーダンスと、NanoVNA で測定したインピーダンスはほぼ一致しました。
しかし、同軸ケーブルの長さの誤差が ±0.2m あるとすると、求めた給電点のインピーダンスも ±100° 以上の誤差を含んでいることになります。とすると、前回やったダミーアンテナの測定値の誤差なんて微々たるものかもしれませんねぇ。遠くにある DUT を正確に測定しようなんてこと自体が無茶なのかもしれません。
後記
今回は、大雨で中継コネクタに雨水が浸潤し、状態が大きく変わってしまった垂直ダイポールアンテナを点検、再調整しました。
再調整といっても室内で簡単にインピーダンス整合を行なっただけです。最初の設置時もそうでしたが、外に出すと給電点インピーダンスが誘導性に振れるようにみえます。これはダイポールアンテナ自体のインピーダンスが、室内で調整しているときよりも低くなっているとも考えられます。高いインピーダンスになっているのかと思っていましたが、あんがい本来のダイポールアンテナのインピーダンスに近いのかもしれません。
なんだかとっ散らかってますけど、まぁ、誤差はあるとしても NanoVNA での測定値を基として考えていくしかないです。そろそろ天候をみながら、アンテナを外に設置した状態で調整してみたいと思っています。