ダイポールアンテナはなぜ 1/2λ に共振させるのでしょうか?
あたり前のことだと思いこんでいましたが、え?たとえば 5/8λ アンテナって共振しないじゃん。なぜ? アンテナの共振って?なに?
ダイポールアンテナはなぜ 1/2λ に共振させるのか
1/2λ ダイポールアンテナを MMANA で計算してみる
以前もやりましたが、もう一度 MMANA で垂直ダイポールアンテナを設計してみましょう。
周波数は 145.000MHz。アンテナ定義は Z1 を 0.000m、Z2 をエレメントの長さとします。エレメントには 12mmΦ のアルミパイプを使っているので、ワイヤ半径 R を 6mm としました。給電点はエレメントの中央 W1C です。その他はデフォルトのままとしておきます。
なお、MMANA では光の速度を 299.8×106m/s としているので、145.000MHz の波長 λ は 2.067586m です。
エレメントの長さ (Z2) を短縮率 100% から 90% まで変化させて、インピーダンスと利得を算出してみました。(表 1)
No. | エレメント長 [m] | 短縮率 [%] | R [Ω] | jX [Ω] | 利得 [dBi] |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1.034 | 100.0 | 88.132 | 40.280 | 2.17 |
2 | 1.008 | 97.5 | 80.033 | 21.407 | 2.15 |
3 | 0.977176 | 94.5224 | 71.850 | 0.000 | 2.12 |
4 | 0.956 | 92.5 | 66.713 | -14.498 | 2.11 |
5 | 0.930 | 90.0 | 60.676 | -32.603 | 2.08 |
No.3 の値、エレメント長が 0.977176m のとき 145.000MHz に共振し、リアクタンス jX が 0.000Ω になりました。このときのレジスタンス R は 71.850Ω で、これがこのアンテナの放射抵抗です。
アンテナの等価回路を RLC 直列共振回路だと考えると、共振しているときのインピーダンスは放射抵抗に等しくなります。このとき回路に流れる電流が最大になり、最大の電力が放射抵抗に消費される。アンテナではこの電力が電波として放出されることになります。
ちなみに、教科書などに出てくる約 75Ω というインピーダンスはこの放射抵抗のことです。
エレメントが長いとき、誘導性リアクタンスが大きくなって電流が減少し、放射電力は小さくなります。短い時は放射抵抗が小さいために、また容量性リアクタンスが大きくなって電流が減少し、放射電力は小さくなります。アンテナに最大の電流を流し放射電力を最大にするにはリアクタンス jX を 0 にしなければなりません。
では、jX を 0 にするにはどうすればよいか?
簡単な方法は共振させること。MMANA で計算したように、共振すれば jX は 0 になります。アンテナを共振させるのは jX を 0 にする方法のひとつ、です。そのように作ったアンテナを「半波長ダイポールアンテナ」と呼びます。
1/2λ に共振させる必要はない
利得の値に注目してみます。
エレメントが長くなるほど利得は大きくなり、5/8λ アンテナに相当する 2.584m (5/4λ) で 4.88dBi になります。ただし、それ以上の長さになると別のファクターのために減少に転じてしまいます。
エレメントが短いと利得は小さくなります。エレメントの両端は開放端なので電流は 0、エレメントが 1/2λ より短いと電流の腹が最大値になりません。アンテナに最大の電流が流れないから、利得も小さくなってしまいます。
それならば、エレメントを長くして利得をより大きくしたほうがいいんじゃないの?
要は電流を最大にすること。そのためにはインピーダンスを整合させればいい。どのみち同軸ケーブルの特性インピーダンス 50Ω にアンテナを整合させるのだから、必ずしもエレメントを共振させなければならないわけではない。
ただし、エレメントは 1/2λ より長くすること。利得を追求するなら 5/4λ にすればいいんじゃない?
ということで、やっぱり垂直ダイポールアンテナの現在のエレメント長 0.94m は、1/2λ より短くていただけない。MMANA での計算結果に従い 0.977176m より長く、だけど半波長ダイポールアンテナの構造にしたがって、製作当初の 0.98m に戻そうと思います。
垂直ダイポールアンテナの調整、ふたたび
エレメントの長さを 0.98m にする
垂直ダイポールアンテナを取り外し室内へ。屋根の上は暑いし、足場が安定しない。外での作業は必要最低限にして、できるだけエアコンの効いた涼しい室内でやりましょう。
エレメント接合部の自己融着テープを剥がし、エレメントの長さを 0.98m にします。そしてまた自己融着テープで防水処理しました。整合調整をやり直しますので、前回整合回路に付けたコンデンサを取り外しました。
作業を終えてアンテナを外のマストに取り付け。手の届く高さに設置したので、作業はずいぶん楽です。
送信機側で測定したインピーダンスは 82.8+j6.64Ω、0.048λ 戻して給電点インピーダンスにすると 67.3+j24.7Ω です。誘導性になっているのでエレメントは 1/2λ より長くなっている、はず。でも、レジスタンスが小さいですね。(図 1)
あ、そうだ、同軸ケーブルの減衰量のことを思い出しました。(過去記事参照)
測定した給電点インピーダンスをリターンロスで表すと -11.98dB (∠ 43.18°) です。同軸ケーブルの減衰量が 2.56dB だとしたら給電点では -9.42dB、位相角そのままでインピーダンスに換算すると 71.3+j37.2Ω になります。これが正しいかどうかはわかりませんけど、だいたいそこらあたりにいるのでは?ないかと?
まぁこれは、誤差の内な話としておきましょう。
Mr.Smith で整合回路の計算をします。(図 2)
送信機側で測定したインピーダンスを給電点へ戻し、並列コンデンサ 15.7pF、直列コイル 39.8nH を接続して 50Ω に整合できました。
Electrical Delay の確認
調整のために整合回路を取り外したので、Electrical Delay の値を再確認してみました。(過去記事参照)
給電点で同軸ケーブルをオープンにし、送信機側で位相角が 0° になるように Electrical Delay を入力すると 193.65ns でした。前回は 193.76ns でしたので、すこし変化したようです。この値から計算した同軸ケーブルの長さは 19.462m (前回 19.473m)、145.00MHz で 14.040λ (前回 14.048λ) に相当します。
わずかな差ですが、以降の計算はこの値で行ないます。
整合回路の調整
整合回路に 13pF のコンデンサを取り付けました。図 3 は、送信機側で測定したトレースです。まだコイルは付けていませんが、前回同様にコンデンサだけでかなり整合できてしまっています。
送信機側のインピーダンスは 51.5-j3.49Ω で、これを 0.040λ 戻した給電点インピーダンスは 53.1-j2.33Ω、VSWR では 1.077 ∠-35.93° です。
もう十分といえる値なのですが、後日もう少し調整してみるつもりです。
じつはこれまでもそうだったのですが、こうしてコンデンサやコイルを取り付けたとき、日が経つにつれてインピーダンスが変化していきます。図 3 のトレースは再設置から 3 日後の測定ですが、コンデンサの取り付け当初より容量が減少するような動きをしてきています。電子工作に使っている安いセラミックコンデンサなので、環境の影響を受けるのかもしれません。しばらく様子をみて、落ち着いたら次へ進めようと考えています。
後記
今回は、エレメントの長さを 0.98m に変更し調整を行ないました。
前回、エレメント長 0.94m のときの VSWR は 1.028 でした。今回はエレメント長 0.98m で調整後は 1.077 です。どちらも VSWR は十分に低いと思いますが、この違いはとても大きいものでした。
前回の調整前の VSWR は 1.3 以上でした。調整後 VSWR が低くなったのに、それまで RS57 を頂いていた局から「今日はノイズが多いですね」とのレポート。受信も、どうもなんだか感度が悪い。今回の調整後は RS57 に戻り、他の局からも「電波強くなりましたよ」とのレポートをいただけました。もちろん受信も以前のように聞こえています。
どうやら前回の調整では「VSWR は低いのに飛ばないアンテナ」にしてしまっていたようです。