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バランにするフェライトコアを NanoVNA で測ってみた

クランプ式フェライトコアで作るチョークコイルの特性を NanoVNA で測定してみようと思います。目的は、垂直ダイポールアンテナのフロートバランに使えるのかなぁ?を考えるためです。

フェライトコアを使ったフロートバランについては、ググるといろいろ見つけられると思います。簡単に言うと、平衡・不平衡接続により同軸ケーブルに流れるコモンモード電流を、チョークコイルによって阻止しようというものです。

治具を作ってキャリブレーションする

本来なら DUT (被測定物) はストリップラインで整合させた治具で測定するべきなのですが、えーと、生基板も、コネクタも、部品箱にないです。BNC コネクタのついた同軸ケーブルの切れっ端がジャンク箱にあるので、こいつでなんとかならないかなってんで作ってみたのが、写真 1 のプローブです。まぁこんなものできちんとした測定ができるとは思わないんで、皆さんはちゃんと治具を作ってくださいませ。
ちなみに、このプローブでは DUT を直列接続して測定します。CH0 だけで行なう並列接続では、並列容量の影響を受けて測定値が容量性になってしまうようです。直列接続の場合は、CH1 の入力インピーダンスが加味されることに注意しなければいけません。

ところで、これ、どーやってキャリブレーションするの? 試行錯誤して、なんとかうまくいきそうな方法があったので、以下、メモです。この方法が正しいかどうかは、わかりません m(_ _;)m

写真1. キャリブレーション OPEN
写真1. キャリブレーション OPEN

まず、通常通りキャリブレーションをリセットしておきます。

ケーブルを CH0、CH1 につないだ状態で、ミノムシクリップをオープンにして「OPEN」をタッチ。(写真 1)

写真2. キャリブレーション SHORT
写真2. キャリブレーション SHORT

ミノムシクリップをつないで「SHORT」をタッチ。(写真 2)
これは CH1 の入力インピーダンスをネグっていることになるんでしょうね、たぶん。

写真3. キャリブレーション LOAD
写真3. キャリブレーション LOAD

ミノムシクリップに 50Ω の抵抗をつないで「LOAD」。(写真 3)
この抵抗は、以前プリント基板用のプローブを作ったときのものです。(過去記事参照)

写真4. キャリブレーション ISOLN
写真4. キャリブレーション ISOLN

CH1 に 50Ω ダミーをつけて「ISOLN」。(写真 4)
CH0 は無関係なので放置しています。

写真5. キャリブレーション THRU
写真5. キャリブレーション THRU

最後にミノムシクリップをつないで「THRU」をタッチ。(写真 5)
これは「SHORT」と同じ状態です。

「DONE」したら「SAVEn」で保存します。

繰り返しますが、このキャリブレーション方法が正しいかどうか、わかりません。にわか作りのプローブで、なんだかそれなりに測定できたみたいだ、というレベルの話です。
ちゃんとした測定は、ちゃんとした治具とちゃんとしたキャリブレーションで、どうぞ。

フェライトコア・チョークを測定してみた

ジャンク箱にあったのはクランプ型のフェライトコア ZCAT3035-1330 と ZCAT1518-0730 です。これらでチョークコイルを作り測定してみました。

ZCAT3035-1330

ZCAT3035-1330 は ZCAT のいちばん大きいタイプで、外形 30mm、長さ 35mm、内径 13mm というサイズです。品番の最後の 30 はコア材質です。

写真6. ZCAT3035-1330 1T
写真6. ZCAT3035-1330 1T

同軸ケーブル RG58A/U を通してシールド線を測定しました。(写真 6)
145.00MHz でのインピーダンスは 167+j27.4Ω、絶対値で 169Ω です。カタログの特性表では 200Ω ほどですので、まぁだいたいそんなところでしょうか。
インダクタンス 30.1nH、減衰量 -8.96dB でした。

写真7. ZCAT3035-1330 2T
写真7. ZCAT3035-1330 2T

2T にしてみます。 (写真 7)
インピーダンスは 457-j363Ω、絶対値で 584Ω です。インピーダンスは理論的には巻数の 2 乗に比例しますが、1T のときの 3.5 倍ほどにとどまっています。
周波数によってインピーダンスが変化するようになりました。容量性で 3.01pF となっていますが、周波数の上昇に伴いリアクタンスが増加していますので、まだインダクタンスが効いているのでしょう。減衰量は -19.03dB でほぼ安定しています。

写真8. ZCAT3035-1330 3T
写真8. ZCAT3035-1330 3T

3T のとき (写真 8) のインピーダンスは 149-j528Ω で、絶対値は 549Ω で 2T と変わりません。容量性 (2.07pF) でリアクタンスが大きいですが、レジスタンスがかなり小さくなっています。減衰量も 2T とあまり変わらず -19.7dB でしたが、高い周波数でインピーダンスはさらに小さくなり、減衰量も減少していきます。
フェライトコアは巻き数を増やすと高周波性能が落ちるといわれていますが、測定値にも現れたようです。

ZCAT1518-0730

ZCAT1518-0730 は ZCAT のいちばん小さいタイプで、外形 15mm、長さ 18mm、内径 7mm というサイズです。RG58A/U では 1 本しか通りませんので、1.5D-2V で測定しました。

写真9. ZCAT1518-0730 1T
写真9. ZCAT1518-0730 1T

1T (写真 9) でのインピーダンスは 70.8+j47.7Ω (|Z|=85.3Ω) でした。カタログの周波数特性では 90Ω ほどなので、近い値です。誘導性で 52.4nH、減衰量は -4.64dB でした。周波数による変化もあまりありません。

写真10. ZCAT1518-0730 2T
写真10. ZCAT1518-0730 2T

2T (写真 10) では 303+j89.4Ω (|Z|=316Ω) と大きくなり、1T の 3.7 倍です。インダクタンスは 98.5nH、減衰量 -13.39dB でした。
周波数が高くなるにつれてレジスタンスが増加し、リアクタンスはピークを越えて減少していくフェライトコアの特性がよく現れているようです。

写真11. ZCAT1518-0730 3T
写真11. ZCAT1518-0730 3T

3T (写真 11) になると、レジスタンスがピークを越え、リアクタンスが誘導性から容量性に変わる様子がわかります。あっ!これは 120MHz 付近で並列共振しているってことですね。並列共振点でレジスタンスが最大、減衰量も最大になっています。
145.00MHz でのインピーダンスは 680-j145Ω (|Z|=695Ω) で、1T の 8.1倍。キャパシタンス 7.52pF、減衰量 -19.63dB でした。

チョークコイルの共振周波数

共振しているということに気づくと、ZCAT3035-1330 の 3T のとき (写真 8) のトレースが理解できます。40MHz あたりで並列共振し容量性となるのですが、さらに周波数が高くなるとリアクタンスが減少していく。レジスタンスも共振点をピークにして小さくなっていく。減衰量も同じです。そんな様子がみえてきます。
2T (写真 7) でも 45MHz 付近で共振していることがわかります。1T (写真 6) では 250MHz 以上です。

ZCAT1518-0730 では、2T (写真 10) での共振周波数は 250MHz ほどのようです。1T (写真 9) では、まだリアクタンスが増加しているのでかなり高そうです。3T (写真 11) では 120MHz 付近で共振しました。

どれをフロートバランにする?

共振点で減衰量が最大になるなら、バランとして使用する周波数で共振させればいいんじゃね?
いやいや、共振するのはフェライトコアの特性じゃなくて線路の影響だし、状況によってはコモンモード電流を増大させてしまうことがあるかもしれない。だから、コモンモード電流を阻止するためにできるだけインピーダンスが大きくて、しかも共振周波数が十分高くて周波数による変化が少ない安定したポイントに選定すべきなんじゃないのかなぁ?

この考えが穏当ならば、今回採用すべきバランは ZCAT1518-0730 に 1.5D-2V を 2T ということになりませんか?

アグリーバランは不安定

実装が簡単なフロートバランとして、同軸ケーブルを空芯コイルにしたアグリーバラン (Ugly Balun) というのがあります。ついでなので、こいつも測定してみました。

写真12. アグリーバランの測定
写真12. アグリーバランの測定

約 70cm の同軸ケーブル RG58A/U を、31mmΦ の紙筒に 5T 巻き付けました。145.00MHz でのインピーダンスは -60.6-j566Ω (569Ω)。減衰量はなんと驚異の -34.58dB!
99MHz 付近で共振して、減衰量は 137MHz で最大に。ちなみに、ケーブル長 70cm は 137MHz の 1/2λ に相当します。

え?ちょっと待ってください。レジスタンスがマイナス 60.6Ω って?なんですか? 測定の誤差かもしれない、でもそれを言ったらすべてがわからなくなります。ここは測定値を信じましょう。

スミスチャートの軌跡が、容量領域でチャートの円の外にはみ出てしまっています。この円の外は負性抵抗領域で、電圧が下がると電流が増えるという不条理の世界、入射波よりも反射波が大きくなっている不安定な領域、なのです。
もし、-j566Ω を打ち消すようなリアクタンス +jX が路線に存在したら、インピーダンスがとても小さくなって大きなコモン電流が流れてしまうかもしれない。うまくいけば素晴らしいバランになるかもしれないけれど、悪くすれば状態をさらに悪くしてしまう原因になる、とても不安定なバランのような気がします。

フロートバランの取り付け

写真13. バランの実装

ということで、垂直ダイポールアンテナにフロートバランを実装しました。(写真 13)
もうね、この給電部はダメです。もっと根本的に構造から考え直さないといけません。とは思ってますが、まぁ今回はこのままなんとか収めましょ。
フロートバランは ZCAT1518-0730 に 1.5D-2V を 2T しています。整合回路は変更なく、並列コンデンサ 13pF だけです。

図1. バラン実装後のトレース

図 1 が、バラン実装後の送信機側で測定したトレースです。
インピーダンスは 49.2+j11.5Ω。今回の Electrical Delay の入力値は 193.62ns、ケーブル長にして 19.458m、14.037λ だったので、この値で給電点インピーダンスを求めると 44.6+j9.52Ω、VSWR は 1.26 ∠114.0° となります。

取り付け方からも想像できますけど、給電部の寄生インダクタンスが大きいんでしょうね。給電部を作り直そうと思ったりもしたのですが、いやぁ、VSWR 1.26 でもう十分じゃね? 使用感も悪くないしさ。

後記

今回は、クランプ式フェライトコアで作ったチョークコイルの特性を、NanoVNA で測定してみました。
ありあわせの材料で作った怪しげなプローブでの測定ですので、信頼性は低いかもしれません。でもまぁ、なんとなくそれらしい結果が出ているようにも思えます。今度はちゃんとした治具を作って測定してみたいです。

この結果を基に ZCAT1518-0730 に 1.5D-2V を 2T のフロートバランを作って実装してみました。受信感度も電波の飛びも変わりなくいい感じです。でも、バランの効果を調べるのは難しそう。確実なのは、電流プローブを作って同軸ケーブルに流れるコモンモード電流を測ってみる、というところでしょうか。これもできればやってみたいですが、QRP (送信出力が小さいこと) では検出が難しいかも。

たかがダイポールアンテナ、されどダイポールアンテナ。簡単に考えていましたが、沼にハマってしまいました。

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