高周波回路に使うコンデンサやコイルなどを NanoVNA で測定するための治具を作っています。前回その基本となるマイクロストリップラインを製作しましたが、もう少しライン幅を小さくして 50Ω に近づけられないか、やってみようと思います。
マイクロストリップラインの修正加工
基板はサンハヤトの「銅張積層基板 (No.31R)」ガラスエポキシ (FR-4) 両面基板で、厚さ 1.6mm、銅張厚 35μm です。
20x40mm にカットし、中央にラインを残して周囲を剥離します。両端に SMA エッジマウントコネクタをハンダ付けします。
当初、ラインを 3.5mm 幅にしましたが、特性インピーダンスが 46Ω 前後と少し低めになりました。そこでもう少しライン幅を小さくすることにしましたが、まぁ修正加工はなかなか難しいです。
仕上がり幅は、これもなかなか正確には測れないのですが、3.2mm になりました。バリ取りの時キズをつけてしまったり、まぁなかなかな出来です。
あわせて、モリモリに盛っていたハンダ付けを修正しました。適量のハンダ、かな。修正したので汚くなってしまいましたけど、裏面の写真も添えておきます。
マイクロストリップラインの特性
修正加工したマイクロストリップラインを測定します。キャリブレーションと測定の方法については前回の記事を参照してください。
トレース 3 に VSWR を追加しました。(DISPLAY / FORMAT / SWR)
波長短縮率 (Marker 1)
終端ショート時の共振周波数が 772MHz になりました。
λ/4 ショートスタブ 共振周波数 772MHz 波長 388.332mm
管内波長 224mm 波長短縮率 0.577
実効比誘電率 3.004
Q 値が高くなったのでしょうか、共振点のトレースが鋭くなりました。
特性インピーダンス
マイクロストリップラインの特性インピーダンスを測定します。
測定はオープンショート法で、終端をショートした時とオープンにした時の入力インピーダンスから伝送路の特性インピーダンスを算出します。
436MHz での特性インピーダンス (Marker 2)
終端ショート
反射係数 ΓSH=0.141+j1.053
入力インピーダンス ZSH=-3.53+j57.0 [Ω]
|ZSH|=√(3.532+57.02)=57.109 [Ω]
終端オープン
反射係数 ΓOP=-0.228-j0.936
入力インピーダンス ZOP=1.49-j39.2 [Ω]
|ZOP|=√(1.492+39.22)=39.228 [Ω]
436MHz におけるマイクロストリップラインの特性インピーダンス |Z0| は、
|Z0|=√(57.109✕39.228)= 47.332 [Ω]
前回の測定値は 46.695Ω でした。思ったほど増えませんでしたね。50Ω になるライン幅の計算値は 2.9mm ですが、やはりそのあたりが正解なのでしょうか。
終端 50Ω
反射係数 Γ50=-0.021-j0.017
入力インピーダンス Z50=47.8-j1.71 [Ω]
VSWR=1.05
|Z50|=√(47.82+1.712)=47.831 [Ω]
50Ω で終端した時の VSWR は 1.05 に下がりました (前回 1.162)。700MHz 以上でも 1.2 以下のようなので、もう十分なんじゃないでしょうか。
148MHz での特性インピーダンス (Marker 3)
終端ショート
反射係数 ΓSH=-0.946+j0.539
入力インピーダンス ZSH=-0.108+j14.5 [Ω]
|ZSH|=√(0.1082+14.52)=14.500 [Ω]
終端オープン
反射係数 ΓOP=0.840-j0.623
入力インピーダンス ZOP=-11.5-j150 [Ω]
|ZOP|=√(11.52+1502)=150.440 [Ω]
148MHz におけるマイクロストリップラインの特性インピーダンス |Z0| は、
|Z0|=√(14.500✕150.440)= 46.705 [Ω]
前回の測定値は 45.540Ω でした。
終端 50Ω
反射係数 Γ50=-0.006-j0.027
入力インピーダンス Z50=49.2-j2.66 [Ω]
VSWR=1.05
|Z50|=√(49.22+2.662)=49.272 [Ω]
50Ω で終端したときの VSWR は 1.05 (前回 1.063) です。144MHz 帯、430MHz 帯、どちらも良好ですね。
レジスタンスがマイナスになる?!
余談ですが。
測定したインピーダンスの値にはレジスタンスがマイナスになっているものがあります。マイクロストリップラインのようなパッシブ回路ではレジスタンスがマイナスになることはないはずなのに、なぜなのでしょう?
いまの俺にはこれを説明できる能力はありません。が、ちょっとだけ齧ってみた話。
こちらのサイトを参考にさせていただきました。ありがとうございます。以下の俺の説明はいい加減ですので、ぜひこちらを参照くださいませ。
負荷インピーダンス ZL=R+jX において、通常は R≧0 なので、複素平面上での偏角は |arg ZL|≦90° です。線路の特性インピーダンス Z0 の偏角は、分布定数の平方根をとるので |arg Z0|≦45° になります。そして、Z0 を基準とした正規化インピーダンス zL (=ZL/Z0) の偏角は |arg zL|≦135° になる。んだそうな…

反射係数は Γ=(zL-1)/(zL+1) です。zL の偏角が 90° を超えると、図 10 に示すように分子 (zL-1) が分母 (zL+1) より大きくなります。つまり、反射係数が 1 より大きくなることはありうる。
スミスチャート上で反射係数が 1 より大きい場所とは R=0 の外周の円のさらに外側、すなわちレジスタンスがマイナスになる領域です。
今回の測定では測定面のインピーダンスは 50+j0[Ω] ですから、偏角が 90° を超えることはないはずです。でも、たとえば 148MHz 終端オープン時の反射係数は Γ=0.840-j0.623 で、大きさは 1.046 と 1 を超えています。インピーダンスを計算すると zL=-0.227-j2.967、偏角は -94.4° です。
CH0 で観測される反射波は、始端での反射だけでなくコネクタや接合点での反射も含めた複雑な電圧なんだろうなぁと想像しています。そうした反射波はマイクロストリップラインの影響も受けますから、それらが誤差となって現れている?
今のところは、そんなふうに考えておきましょうか。もう少しいろいろ勉強してみます。
後記
今回はちょっと寄り道、マイクロストリップラインの幅を少し小さくして、特性インピーダンスがどうなるか確かめてみました。特性インピーダンスとしてはもう少しライン幅を小さくしてよさそうです。でもまぁ、アマチュアの測定用治具としては十分なのではないでしょうか、ねぇ。
次に作るときはライン幅を 3.0mm にしようと思いますけど、ラフでいいかもです。
さて、次は素子を取り付けて測定ができるように加工しましょう。できるだけ部品箱にある材料でやりたいので、部品を探しながら考えます。