アマチュア無線機 IC-551 の修理記録です。今回は、メモリ用電源の電圧が低い件を調べてみました。
メモリ用電源の電圧は 10~14V (20mA) が正常値です。が、メモリスイッチをオンした状態で 8.9V、電源スイッチを入れてスイッチングレギュレータの PWM 発振回路が動作すると 6V にまで低下してしまいます。
この後につながる回路に不具合があって正常値より大きな電流が流れているのではないかと、前回は考えていました、が…
メモリ用電源回路 (PI ユニット部)
図 1 は PI ユニット部のメモリ用電源回路です。
メモリスイッチをオンすると H2、H3 に AC100V が印加されます。メモリ用電源出力 H4 を開放したときの整流出力は 18.4V でした。電源スイッチをオンして H8 からの電圧が PWM コントローラ IC を動作させると 12.8V まで低下します。(表 1)
SW 状態 | 整流出力 | H4 | H8 |
MEMO ON | 18.4V | 14.3V | 0V |
POW ON | 12.8V | 12.4V | 12.7V |
と、ここまでは前回調べた結果です。

しかしいくらなんでも、これはちょっと電圧降下が大きすぎるんじゃね?
そこで、整流出力電圧の波形を確認してみました。
図 2 が電源スイッチオン時の整流出力波形です。H4 は負荷に接続しています。
ずいぶん波打ってますね。60Hz 地域で半波整流ですので周期は 17ms、電圧は 11±1V ぐらいに読みとれます。
電源回路としてはちょっといただけません。
テスターでの測定では整流出力 11.05V、H4 出力 5.88V でした。H4 を最低 10V (20mA) とすると、R9 220Ω と D4 での電圧降下を含めて整流出力は少なくとも 15V 必要です。断定はできませんが、やはり電源回路自体に不具合があると考えるのが妥当ですよね。平滑コンデンサ C7 の不良などが考えられます。
が、とりあえずここでは修理せず、次に進みましょう。
CPU 電源回路 (ドライバ基板)
回路と電圧測定値
PI ユニット部のメモリ用電源回路の H4 から出力された 10~14V (MEMO) は、ドライバ基板内の CPU 電源回路へ送られます。
図 3 が CPU 電源回路、この回路の動きを確認します。
なお、本体の電源ユニットは故障していますので、動作テストは実験などに使っているスイッチング電源から 12V を供給することにしました。
MEMO に 12V (実測値 12.23V) を印加すると、CPU の電源 M9V として 8.71V が出力されました。メンテナンスマニュアルによると Q7 のコレクタ電圧は 8.6V ですので正常値です。回路図の各部の電圧はすべて実測値です。
また、HV に 12V を印加したときも同様に 8.71V が出力されました。
ということで、この CPU 電源回路は正常に動作しているようです。
動作の概要
えーと、テスト結果だけではつまらないので、もう少し回路をみていきましょう。
MEMO はメモリ用電源 10~14V のラインです。この電圧を Q7 で安定化し、9V (M9V) を出力します。M9V は CPU の電源と一部のロジック回路への信号として利用されています。また、電源の 13.8V (HV) が印加された場合も同様に M9V が出力されます。
メモリスイッチがオンで MEMO が印加されていれば、電源スイッチがオフでも CPU は稼働し、メモリが保持されるという仕組みです。
出力 M9V が上昇すると Q6 のコレクタ電圧が下降し、Q8 のコレクタ電圧が上昇、Q7 のベース電圧が上昇して M9V は下降します。逆に M9V が下降すると Q7 のベース電圧が下降、M9V は上昇して安定化されます。
Q9、Q10、Q11 の回路は、HV が瞬停したときでも M9V を安定に出力するための回路です。HV が HIGH であれば Q10 がオンになり C22 に充電されます。HV が低下すると IC19 からのパルス信号で Q11 がオンオフを繰り返し、C22 の充電電圧が Q7 のエミッタに印加されて M9V を保持します。
CPU のリセット
M9V が立ち上がると C7 を通して IC9 (CPU) の 9 ピンが HIGH になり、C7 が充電されると 9 ピンは LOW になります。これは CPU のリセット端子のようです。MEMO と HV がオフになると Q4 がオンになり C7 をすぐに放電させます。
メンテナンスマニュアルでは Q4 のコレクタ電圧は 0V となっていますが、実測値は 3.88V でした。
図 4 は M9V 立ち上がり時の 9 ピンの電圧波形です。始めは 9V まで上がりますが、数秒経過しても 5V までしか低下していません。
メンテナンスマニュアルによると IC9 CPU は P-MOS で、VSS 9V のとき H-level 5V 以上、L-level 1V 以下となっています。
これでは CPU はリセットされないのではないでしょうか?
でも、CPU の 7 セグメント表示器への出力信号を確認すると、チューニングツマミの回転にしたがって信号が変化するので、どうやら CPU 自体は動いているようです。
C7 の不良とかあるのかもしれませんが、これについてはペディングとしておきましょう。
後記
今回は、メモリ用電源回路と CPU 電源回路の動作を確認しました。
メモリ用電源は 10~14V が正常値ですが、実測値は 6V と低い電圧でした。その原因はどうやら PI ユニット部のメモリ用電源回路自体にありそうです。メモリ用電源からつながるドライバ基板の CPU 電源回路は、12V を入力すると 9V を出力するので正常に動作しているようです。
CPU のリセットが正常に行われているかちょっと疑問がありますが、CPU から 7 セグメント表示器への信号は出力されているので、とりあえず CPU は動いているようです。
7 セグメント表示器への信号が出力されているのに表示が点灯しない。ならば、表示器の電源は?
回路図をたどっていくと -18V など負電圧を出力する DC-DC コンバータがあるようです。表示器の電圧はテストポイントが確認できず測れなかったのですが、PLL ユニットへ供給している -10V なら…

えーと、あっ、0V ですよ ?!
なにやら核心に一歩近づいたような… 次はこの DC-DC コンバータ周りを調べてみましょう。