アマチュア無線機 IC-551 の修理記録です。今回は、7 セグメント表示器の電源の DC-DC コンバータ周りを調べました。と、ここでついに、異常箇所を発見です!
前回は、CPU の電源回路が正常に動いていることを確認しました。さらに 7 セグメント表示器へのデータも出力されていて、どうやら CPU は動いているようだとわかりました。
となると、7 セグメント表示器が点灯しないのは表示器に電源を供給している DC-DC コンバータのせい? 確認のため出力 -10V のラインを測ってみると… 0V でした。
IC-18 に異常あり
メンテナンスマニュアルのトラブルシューティングに「ディスプレイが表示しない」の項目があり、「IC-18 (DP-4) の不良」「チョークコイル L2 の不良」と書かれています。ここをチェックしましょう。
写真 1 がドライバ基板です。
中央手前の丸いコイルのような部品が載っている基板が DC-DC コンバータ IC-18 です。部品番号は IC となっていますが、小さな基板に載せられたモジュールのようです。
IC-18 の左側にあったチョークコイル L2 とコンデンサ C26 は、テストのためにすでに外してあります。
チョークコイル L2 の樹脂ケースは熱で変形していて、導通を測ってみると断線していました。そのため、IC-18 に電源 13.8V が供給されない状態です。さらには、IC-18 の電源入力 IN と GND 間がショートしています。基板から C26 を外しても同様なので、IC-18 の不良と判断しました。
写真 2 は、取り外した IC-18 を側面から見たようすです。
トランジスタ 2SC1214 に亀裂が入っています。外してチェックすると、すべてのピンがショートしていました。
丸い部品は 9 つの端子があるトランスのようです。発振回路らしきトランジスタ回路とトランスとダイオード、まさに DC-DC コンバータですね。
熱で変形していた L2 は、ちょうどこのトランジスタの横に位置していました。過電流による破壊だとすると 7 セグメント表示器の不良とかも気になります。ま、それは次の段階で調べましょう。
とにかく、7 セグメント表示器が点灯しない原因のひとつは IC-18 と L2 の不良であるようだとわかりました。
DC-DC コンバータの動作
IC-18 は、7 セグメント表示器への -18V と PLL ユニットへの -10V を供給している DC-DCコンバータです。小さな基板に載ったモジュールで、内部回路は回路図には書かれていません。が、同じ 7 セグメント表示器を使っているという YAESU FT-480R のサービスマニュアルに回路が載っていたので、参考にさせていただきました。
回路
IC-18 から起こした DC-DC コンバータ回路が図 1 です。完全ではないかもしれませんが、動作原理的には間違いないと思います。

DC-DC コンバータ回路は、トランジスタとトランスを使った発振回路とトランス二次側出力を半波整流する回路からなっています。
電源が入るとトランジスタ Q1 がオンしてコレクタ側のコイルに電流が流れます。すると、ベース側のコイル出力によりベース電圧が低下し Q1 はオフします。コレクタ電流がオフするとベース電圧が上昇して、再び Q1 がオンする、を繰り返して発振します。
出力はトランスの二次側から取り出し、ダイオード D1、D2 で半波整流して -18V と -10V の DC 負電圧を得ています。
D3 の用途がよくわからないのですが、保護的なもの?かもしれません。

トランスの出力 H と CT は何でしょうか?
メンテナンスマニュアルによると 7 セグメント表示器は蛍光表示管 LD8231 とのこと。蛍光表示管は真空管の直熱三極管と同じ原理ですから、H はヒーター、CT はカソードを表しているのでしょう。H-H 間にヒーター (フィラメント) 用の AC 電圧が出力され、CT に -15V を重畳してカソード電圧としているようです。カソード電圧の -15V は、-18V を R18、R19 で分圧して得ています。
ところでこの回路、何らかの理由で発振が止まるとトランジスタが壊れるんじゃないでしょうか。そのためかドライバ基板の 13.8V ラインにヒューズらしきものが入っていますが、回路図にはありません。トラブルシューティングにあるように、トランジスタが壊れるとコイル L2 が溶断するのですね、きっと。
動作テスト
IC-18 の動作テストをしてみましょう。
まず、破損しているトランジスタ 2SC1214 (50V 500mA) を交換したいのですが、代替できるトランジスタは… 部品箱にありません。でも、無負荷での動作テストなら、お馴染みの 2SC1815 (50V 150mA) でも可能ではないでしょうか?
とりあえず 2SC1815 を取り付け、ブレッドボード上に DC-DC コンバータ回路を組んでみました。 入力電圧は 12V、各出力には 10KΩ の抵抗を仮の負荷として接続しました。 インダクタもないので、L1、L2 と C25 は無しでテストしています。
ちなみに、ネットで 2SC1214 の足の並びを調べると ECB の順になっていますが、実際に取り付けられていた 2SC1214 は TO-92 ではない四角い形状で、足は BCE のようです。向きが逆になるので、交換時には注意が必要です。

まさか製造時に逆に取り付けられていた、とか? … さすがにそれはないか。
電源を入れると電圧が出力されました。うまく動いたようです。
図 2 はコレクタの電圧波形です。
発振周波数は 518KHz です。電圧が 26VP-P 出ていますね。うまく発振しているようです。
でも、トランジスタの VCEO は 50V で大丈夫でしょうか? 俺的にはもう少し欲しい気分です。
図 4 はトランス二次側の出力の電圧波形です。黄が -18V 側、青が -10V 側です。
-18V 側の AC 出力が 40VP-P、-10V 側が 20VP-P、半波整流後の DC 電圧はそれぞれ -17.21V、-9.83V でした。
図 5 は H-H 間の出力電圧波形です。
出力電圧は 6.8VP-P のほぼ方形波なので、交流としての実効値は 3.4V です。LD8231 のフィラメント電圧は 3.3V ですので、一致します。
周波数はどうなのでしょう? 意外と高いんですね。
仮に取り付けた 2SC1815 での動作テストでしたが、しっかり発振してくれました。回路図に書かれていた -18V、-10V を出力していますし、フィラメント電圧 AC3.3V と カソードバイアス -15V も出ています。
蛍光表示管の動作
蛍光表示管 LD8231 周りの回路 (図 6) についてもみておきたいと思います。ただ、蛍光表示管は扱った経験がないので、以下は回路図を見た俺の想像です。もし実際に動くようになったら、ちゃんと確かめてみたいです。
LD8231 は 9 桁の 7 セグメント表示器です。
各桁毎にグリッドがあって、グリッドに電圧をかけることでその桁を点灯制御できます。各セグメントはアノード (プレート) で、アノードに電圧をかけるとそのセグメントが光ります。
なので、点灯させたいアノードに電圧をかけておき、グリッドに順次電圧をかけていくことでダイナミック点灯ができます。
なお、表示は 9 桁の内 7 桁を使用しています。
LD8231 のフィラメントには IC-18 の H から AC3.3V が印加されます。直熱式なのでフィラメント (カソード) にはバイアス -15V が重畳されています。
IC-9 (CPU) の出力 O0~O7 がセグメントのデータ信号で、アノードに入力します。出力 R0~R6 が各桁のグリッドを制御する信号で、ダイナミック点灯の周期は 14.4ms (69.4Hz) です。また、CPU は P-MOS IC で、電源は VSS +9V (M9V)、VDD 0V (GND) としているようです。

P-MOS IC ってなんですか?
P-MOS IC とは Pch MOSFET を基本とした IC だそうです。
IC-551 では IC-9 (CPU) と IC-10 (I/O) が P-MOS IC で、他は C-MOS IC です。なので、CPU の出力回路は Pch MOSFET のオープンドレインじゃないかな。いわゆるハイサイドスイッチってやつですね。
グリッドとアノードは抵抗アレー R11、R12 により -18V にプルダウンされています。このときカソードは -15V なのでアノード電流は流れず、消灯しています。
CPU のセグメント信号 On がオンのときアノードは +9V になるので、グリッド信号 Rn がオン (+9V) になっている桁のアノードが点灯します。このときアノードはカソードに対して +24V の電位になるわけで、LD8231 の定格のアノード電圧 24V に合致します。
最後に、LD8231 周辺の導通を確認しておきましょう。
グリッド、アノードには特にショートしているようなところはありません。テスターでの測定なので、電圧をかけたときどうなるかはわかりませんけど、まぁ大丈夫でしょう。抵抗アレーも正常のようです。
フィラメントの抵抗値は 68.5Ω でした。点灯時の抵抗値を 10 倍とすると電流は 5mA ぐらいでしょうか。そんなもの? どうでしょう? まぁ、異常なオーダーではないと思います。
そうそう、PLL ユニットの -10V ラインも確認しないといけませんね。こちらも、ショートして … いませんね。大丈夫です。
後記
今回は 7 セグメント表示器に電源を供給している DC-DC コンバータ周りを調べました。結果、電圧がでていなかった原因は、発振回路のトランジスタの破損だとわかりました。
でも、どうしてトランジスタが破損したのかは、わかりません。何かの理由で発振が止まり、コレクタに大きな電流が流れたのか?と想像してみるくらいです。入力側のチョークコイルは、トランジスタがショートして大きな電流が流れたために断線してしまったのでしょう。
故障した当時のことを思い返してみたのですが、7 セグメント表示器が点灯しなくなり、送信も受信もできなくなったので、PLL 周りの故障かなぁと漠然と考えていました。この DC-DC コンバータが故障すると 7 セグメント表示器は点灯しなくなりますし、PLL ユニットへも電源を供給しているので送受信ができなくなります。当時の考えも、あながち間違いではなかったかも、です。
仮のトランジスタを取り付けて動作をテストすると、DC-DC コンバータ回路は正常に動作しました。トランジスタとチョークコイルを交換すれば、IC-551 が生き返る … 見込みがでてきましたよ。
トランジスタ 2SC1214 は入手不可能ではないようです。が、これに限るわけでもなさそうなので、代替品を探せば良いでしょう。さっそく適当なのを選定して、インダクタと一緒に注文しましょう。