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プッシュプル増幅回路でスピーカーを鳴らす

オペアンプの出力をプッシュプル増幅回路に入力してスピーカーを鳴らしてみましょう。

前回は、汎用オペアンプ LM358 の出力をエミッタフォロワ回路で増幅して小型スピーカーを鳴らしてみました。残念ながら 11mW の出力しか出ませんでしたが、改善の余地はありそうです。それはまた次の機会に。

今回は、増幅効率を上げるためにプッシュプル増幅回路を試してみます。
プッシュプル回路は、これまでに MOSFET の駆動回路に利用したことがあります。スイッチング制御なのでデジタル回路ですね。でもそれがアナログ増幅回路となるとちょっと勝手が違う。バイアス電圧によって A級、B級、C級増幅などありますが、そこは半世紀前に勉強したアマチュア無線の知識が役立ってます。

まずは、プッシュプル増幅回路の簡単な復習から始めましょう。

プッシュプル増幅回路

トランス式プッシュプル増幅回路
図1. トランス式プッシュプル増幅回路

図1 は、入力、出力にトランスを利用した古典的なプッシュプル (push-pull) 増幅回路です。
エミッタ接地回路を 2つ配置し、入力トランスで Q1、Q2 に入力信号を逆相で入力しています。ベースにバイアス電圧を与えない B級増幅になっているので、Q1 は信号電圧のプラスの周期を、Q2 はマイナスの周期をそれぞれ増幅して、出力トランスで合成します。

出力トランスをなくした SEPP増幅回路
図2. 出力トランスをなくした SEPP増幅回路

トランスは大きいしいろいろ面倒。そこで出力トランスをなくしたのが図2 の回路。
出力が 1つになっているので SEPP (single ended push-pull) 回路といいます。出力トランスがないので OTL (output transformerless) 回路とも呼ばれます。この回路は、出力コンデンサ C1 が VCC/2 の電源となるエミッタ接地回路の組み合わせです。Q1 がエミッタフォロワのようにもみえますが、等価的にはエミッタ接地回路です。

コンプリメンタリ SEPP増幅回路
図3. コンプリメンタリ SEPP増幅回路

さらに入力トランスをなくすために、片方の回路を逆相の動作ができる PNPトランジスタにしたのが図3 の回路。
Q1 は Q2 をエミッタ抵抗としたエミッタフォロワ回路、Q2 は Q1 をエミッタ抵抗としたエミッタフォロワ回路と考えることができます。Q1、Q2 には特性のそろったコンプリメンタリ (complimentary) なトランジスタを使うので、コンプリメンタリ SEPP 回路といいます。2つの回路はともに B級増幅なので、VBE が 0.6V 以下では動作せずクロスオーバー歪を生じます。

AB級バイアスを加えた SEPP増幅回路
図4. AB級バイアスを加えた SEPP増幅回路

そこで VBE と同じ電圧をバイアス電圧として加える AB級増幅とするために、BE間にダイオードを挿入したのが図4 です。ネットでもよくみるプッシュプル増幅回路になってきましたね。
Q1、Q2 と D1、D2 とはカレントミラー回路になるので、D1、D2 に流れる電流と同じだけの電流が常に Q1、Q2 のコレクタに流れ、クロスオーバー歪を低減させます。

オーディオアンプの回路図をみていると、さまざまなバリエーションがあることに気づきます。図2 のようにエミッタ接地回路を重ねた形の A級増幅回路もみつけました。図4 の抵抗 R2 をトランジスタに置き換え、出力をフィードバックして安定性を増した回路もよくみます。こうした基本的な形を知ることで、先達たちの回路も理解しやすくなりそうです。

回路図

実験のために作った回路図が図5 です。直流電圧の実測値を記入 (プローブのマーク) してあります。

プッシュプル増幅回路によるスピーカー駆動回路図
図5. プッシュプル増幅回路によるスピーカー駆動回路図

トランジスタは、NPN に 2SC2120 (35V 0.8A) を、PNP には 2SC2120 とコンプリメンタリな 2SA950 (-35V -0.8A) を使用します。2SC1815 (60V 150mA) と 2SA1015 (-50V -150mA) との組み合わせではコレクタ電流が不足しますので使えません。

バイアス電流を与えるダイオードは、特性を合わせるためにトランジスタに置き換えました。まさにカレントミラー回路です。4個のトランジスタは、オーディオアンプで見かけるように抱き合わせて同じ温度に管理するのが基本ですが、ブレッドボードではうまくできませんね。
ちなみに、ブレッドボードで組むとき、接触不良などで Q1、Q2 がオープンにならないよう注意しましょう。ここが外れると Q3、Q4 のコレクタに大きな電流が流れてしまいます。トランジスタが壊れるくらいなら高が知れていますが、火事にでもなったら大変です。ご注意を。
トランジスタの特性のばらつきを軽減するなどのために、各トランジスタのエミッタ側に小さな抵抗 (1Ω程度?) をいれたほうが良いです。が、部品箱に適当な抵抗器がなかったので入れていません。実際に製作するなら考慮しましょう。そうそう、コレクタの過電流対策もね。

無信号時に流しておくアイドリング電流は R6、R7 で規定されます。この値はクロスオーバー歪の状態をオシロスコープで見ながらカットアンドトライで決めました。オペアンプの出力バイアス抵抗 R5 は出力電流によって動作点を定めます。次項以降で値を確認します。

直流動作点の計算

計算、などと書いてますが、毎度の俺的テキトーな計算です。

R6 の両端電圧は VR6=5.05-3.14=1.91V、R7 の両端電圧も VR7=1.91V と等しいので R6、R7 に流れるアイドリング電流 IID はどちらも、

IID = VR6/R6 = 1.91 / (1 x 103) = 1.91 [mA]

です。これと等しい電流が Q3、Q4 のコレクタ電流であり、ベース電流を無視すればエミッタ電流に等しくなります。出力電圧は 2.53V。Q3、Q4 のコレクタエミッタ間電圧が等しければ出力電圧は VCC/2 になるはずなので、間違いなさそうです。
Q3 のベースエミッタ間電圧は 0.61V、Q4 は 0.62V です。コンプリメンタリなトランジスタなのでほぼ同じ。測定誤差でしょう。直流電流増幅率 hFE を 300 とするとベース電流は 6.4μA で、無視できる大きさです。

オペアンプの出力バイアス抵抗 R5 は 330Ω としています。出力されるバイアス電流 IOB は、

IOB = VB/R5 = 1.61 / 330 = 4.88 [mA]

オペアンプのソース電流を最大 10mA とすると、だいたい中点になります。この値については次項で確認します。

正弦波信号の計算

AB級増幅で大信号なので h パラメータによる計算はできませんが、片側をエミッタフォロワ回路と考えて無理矢理計算してみましょう。図6 が等価回路です。

プッシュプル増幅回路の (無理矢理な) 等価回路
図6. プッシュプル増幅回路の (無理矢理な) 等価回路

まず、入力インピーダンス hic を、コレクタ電流を無視して、

hic = hFE・RL = 300 x 8 = 2.40 [KΩ]

とします。ちょっと強引にも思えますが、エミッタフォロワ回路では大した誤差にはなりません。
オペアンプの出力電圧は 0.55V なので、入力電圧 vi は最大値で 0.55x√2=0.78V です。ベース電流 ib は、

ib = vi / hic = 0.78 / (2.40 x 103) = 0.325 [mA]

入力インピーダンス Zi は R6、R7 と hic の並列抵抗値なので、

Zi = R6//R7//hic = 1 / {( 1/1 + 1/1 + 1/2.40) x 10-3} = 414 [Ω]

オペアンプの負荷抵抗 Ro は、

Ro = R5//Zi = 1 / (1/330 + 1/414) = 184 [Ω]

オペアンプの出力電流 iop は、

iop = vi/Ro = 0.78 / 184 = 4.24 [mA]

オペアンプの出力バイアス電流 IOB は 4.88mA で不足しません。また、プラス周期時の最大電流は iop+IOB=9.12mA です。オペアンプ LM358 ではソース電流が 10mA を超えると出力電圧が落ちるようですが、これも問題ないでしょう。
入力コンデンサ C4 は入力インピーダンス Zi とハイパスフィルタを形成します。カットオフ周波数 fC4 は、

fC4 = 1/(2π・C4・Zi) = 1 / (2π x 47 x 10-6 x 414) = 8.2 [Hz]

低音帯域は 50Hz ですので、問題ありません。
エミッタ電流 ie は、

ie = hfe・ib+ib = 300 x 0.325 + 0.325 = 97.8 [mA]

したがって、スピーカーにかかる出力電圧 vo は、

vo = ie・RL = 97.8 x 10-3 x 8 = 0.78 [V]

実効値では 0.78/√2=0.55V ですので、スピーカー出力 PS は、

PS = vo2/RL = 0.55 / 8 = 38 [mW]

となりました。回りくどい計算をしたけれど、エミッタフォロワ回路なので電圧増幅率は 1 である、ということ。つまり、入力電圧がそのままスピーカーにかかる電圧と考えればいいんですね。
出力インピーダンス Zo は、オペアンプの出力インピーダンスを 0Ω とすると、

Zo = hic/hFE = (2.40 x 103) / 300 = 8 [Ω]

出力コンデンサ C5 は、スピーカーのインピーダンス RL とハイパスフィルタを形成します。カットオフ周波数 fC5 は、

fC5 = 1/(2π・C5・RL) = 1 / (2π x 470 x 10-6 x 8) = 42 [Hz]

低音帯域が 50Hz なのでもう少し大きくすべきなのでしょうが、このままにしておきます。

最後にコレクタ損失 PC を求めてみましょう。アイドリング電流は無視します。
最大コレクタ電流 ic は、

ic = hfe・ib = 300 x 0.325 = 97.5 [mA]

直流電力 PDC は、コレクタ電流の平均値 IAVE=ic・2/π より、

PDC = VCC・IAVE = VCC ・ic・2/π = 5.05 x 97.5 x 2 / π = 314 [mW]

これから出力信号の電力 PS を引いた半分が、トランジスタ 1個のコレクタ損失 PC になります。

PC = (PDC-PS)/2 = (314 - 38) / 2 = 138 [mW]

最大コレクタ損失は 600mW ですので問題ありません。トランジスタの発熱もありませんでした。

入出力波形

スピーカー出力電圧波形 1000Hz
図7. スピーカー出力電圧波形 1000Hz

図7 は、オペアンプに入力した 1000Hz の正弦波波形 (青) とスピーカー出力波形 (黄) で、入力電圧 0.10V、出力電圧 0.42V です。出力は 22mW となりました。
計算通り、とはいきませんね。出力としてはエミッタ接地回路とかわりませんが、無信号時に大きなコレクタ電流が流れませんので効率が、いい。うーん、上の計算では 12% です。エミッタ接地回路のときは 5% 以下。たしかに効率は、いい。

スピーカー出力電圧波形 50Hz
図8. スピーカー出力電圧波形 50Hz

図8 は、50Hz 時の入出力波形です。入力電圧 0.10V、出力電圧 0.30V で、出力は 11mW と小さくなりましたが、なぜか今回はブーンという音が、俺の耳に聞こえます。これまでと何が違ったのでしょうか?しっかり電圧駆動すると低音も鳴る?うーん?
位相がけっこう進んでいますね。90° ほどでしょうか。

スピーカー出力電圧波形 7000Hz
図9. スピーカー出力電圧波形 7000Hz

図9 は、7000Hz 時の入出力波形です。入力電圧 0.10V、出力電圧 0.38V、出力 18mW です。位相は少し遅れています。出力が少し小さくなった以外は、これまでと同じようです。

後記

今回は、オペアンプ増幅回路の出力をプッシュプル回路に入れて、小型スピーカーを駆動してみました。

実験した回路は、基本的というか原理的というか、いわゆる実用的なオーディオアンプの回路ではないと思います。でも、最初のほうで書きましたけれど、これがわかったらさまざまなプッシュプルアンプもなんだか理解できそうな感じです。バイアス電圧のかけ方とか、フィードバックをどのようにしているとか、いろいろ知りたくもなってきます。そうして沼にはまる ……

さて、オペアンプから脱線してしまいました。もう少しオペアンプを試してみたいと思っていますが、まぁまた気が向いたら、ってことで。

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