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ネットワークアナライザ NanoVNA-H4 を使ってみる

ネットワークアナライザ NanoVNA-H4 を購入したので、使い方を勉強します。
ただし、購入したのは安価なクローン製品です。はたして使い物になるのか? そして俺はこれを使いこなせるのか? すべてが五里霧中ですが、とにかく進めてみましょう。

目的は、先日作ってみた 144MHz帯ダイポールアンテナの調整です。

でも、いきなり、どうなっているのかわからない自作アンテナを、どう使えばよいのかわからない NanoVNA で調整するなど、無茶です。まずは、特性のわかるダミーアンテナ(*1)を作りながら、NanoVNA の使い方から学んでいきたいと思います。

なお、インピーダンスや複素数の計算、スミスチャートの使い方などについて、基本的なことは教科書などを参照してください。ただ、俺自身も難しいことはわかりませんし、難しい計算などしたくもありません。毎度の meyon的テキトーな計算や備忘録的テキトーな解説がでてきますが、ご容赦ください。

(*1) ここでいう「ダミーアンテナ」とは、いわゆる「ダミーロード」ではなく、アンテナと同様の特性をもたせた RLC直列共振回路で構成した疑似アンテナを意味します。

NanoVNA とは

VNA (Vector Network Analyzer) とは、DUT (Device Under Test : 被測定物) の電子回路網特性を測定する装置です。NanoVNA は、4端子回路網の特性パラメータのひとつである Sパラメータ (Scattering Parameters) のうち、S11 と S21 を測定します。

Sパラメータとは、たとえばトランジスタ増幅回路ででてきた hパラメータの親戚のようなものですが、電圧/電流ではなく、入射波/反射波で特性を表します。S11 は「入力反射係数」で、CH0 から信号を DUT へ入力したとき CH0 に反射してくる信号の大きさ、S21 は「順方向利得」で、CH0 から信号を入力したとき DUT を通過して CH1 へ入ってくる信号で挿入利得 (損失) を表します。
Sパラメータには他に S12 (出力反射係数)、S22 (逆方向利得) がありますが、それらは NanoVNA では測定できません。

とまぁ、そんな測定装置だそうな。詳しくはググってくださいませ。

最初にやること

測定に先立ち、まず測定周波数の設定をして、次にキャリブレーション (較正) を行います。キャリブレーションは、周波数範囲を変更するたびに実行する必要があります。

測定周波数の設定

測定する周波数範囲を設定します。今回は、145MHz を中心として ±100MHz (45MHz~245MHz) としてみましょう。

メニューの STIMULUS/CENTER を「145M」、STIMULUS/SPAN を「200M」と設定します。これで、145MHz を中心に ±100MHz の範囲が測定されます。メインスクリーンに「CENTER 145.000 000 MHz / SPAN 200.000 000 MHz」と表示されていることを確認します。
なお、この NanoVNA-H4 はステップ数が 101 に固定されているようです。そのため、スパンを 200MHz にすると 2MHz 間隔の測定となります。周波数範囲を広くすると測定が粗くなってしまうので、注意が必要です。

キャリブレーション

測定周波数範囲を設定したらキャリブレーションを行ないます。今回はアンテナ (2端子回路網) の反射特性の測定が目的ですので、CH0 のみ較正します。このとき、測定用同軸ケーブルを接続して行なうのが原則です。

  1. 現在のキャリブレーション状態をリセット CAL/RESET
  2. 同軸ケーブルを CH0 に接続
  3. CAL/CALIBRATE を選択
  4. CH0 のケーブルに OPEN標準プラグを接続し、OPEN をクリック
  5. CH0 のケーブルに SHORT標準プラグを接続し、SHORT をクリック
  6. CH0 のケーブルに LOAD標準プラグを接続し、LOAD をクリック
  7. DONE をクリック
  8. SAVEn (nは 0~6) をクリックして保存

メインスクリーン左側に Cn (nは保存した番号)、D、R、S と大文字で表示されていることを確認します。もし小文字で表示されている場合は、キャリブレーション後に周波数範囲が変更されていることを示しています。

トレース表示

メインスクリーンには最大 4つのトレース (測定結果) を表示できますが、あれこれ表示するとわかりにくくなってしまいます。ここでは 1つか 2つだけにしておきましょう。

DISPLAY/TRACE を選択し、TRACEn (nは 0~3) をクリックすることで「オン/アクティブ/オフ」を切り替えできます。メインスクリーンで CH0 が反転表示されているトレースがアクティブトレースです。トレースの表示形式を変更できるのはアクティブトレースのみですので、トレースをアクティブにしてから変更します。
もし CH1 と表示されていたら、DISPLAY/CHANNEL/CH0 REFLECT で CH0 に切り換えます。

素子の測定

測定の準備ができたので、最初にダミーアンテナを構成する各素子を測定してみようと思います。

レジスタンスの測定

レジスタンスの測定回路図
図1. レジスタンスの測定

交流電源に抵抗を接続し、測定します。

電源の周波数 f は 45MHz~245MHz、路線の特性インピーダンス Z0 は 50Ω です。ここに抵抗 75Ω を接続した回路を考えます。

レジスタンスの測定 スミスチャート
図2. レジスタンスの測定 スミスチャート

Mr.Smith(*2) でスミスチャート上にプロットしてみました。

出力側を開放 (Marker0) して、75Ω の抵抗を並列接続 (Maker1) しています(*3)
純抵抗ですから、周波数によるレジスタンスの変化はありません。レジスタンス R は、

R = 75 [Ω]

です。

(*2) Mr.Smith は Mr.Smithの詳細情報 : Vector ソフトを探す! からダウンロードできます。
(*3) 出力側を 0Ω として、75Ω の抵抗を直列接続しても同じ結果が得られます。

Mr.Smith で確かめたことを、NanoVNA で再現してみましょう。
まず、測定周波数を 145MHz±100MHz にしてキャリブレーションします。次に、NanoVNA CH0 に抵抗 75Ω (150Ω 2本を並列にしたもの) を接続しますが、変換コネクタなどを使用しているので、本体コネクタに荷重をかけないようにキャリブレーションした測定用ケーブルを介してつなぎます。

レジスタンスの測定 NanoVNA
図3. レジスタンスの測定 NanoVNA

DISPLAY/FORMAT/SMITH でスミスチャートを表示します。表示形式は MARKER/SMITH VALUE/R+Xj としました。マーカーは、ジョグダイヤルを操作して 145MHz に合わせます (黄色のマーカー)。

もうひとつのトレースに、レジスタンスのグラフを DISPLAY/FORMAT/>MORE/RESISTEANCE で表示しました (青のマーカー)。

測定されたインピーダンスは 145MHz で 79.2+j12.2Ω と、誘導性になりました。誘導性になるのは抵抗のリード線などの寄生リアクタンスの影響で、周波数が高くなるほど誘導性リアクタンスが大きくなります。
周波数が高くなるにしたがってレジスタンスも大きくなっていますが、これは寄生インダクタンスに並列に寄生レジスタンスがあるためです。周波数が低い間は誘導性リアクタンスが小さくてみえませんが、周波数が高くなるにしたがって影響がでてきます。

容量性リアクタンスの測定

容量性リアクタンスの測定 回路図
図4. 容量性リアクタンスの測定

コンデンサを測定してみます。

コンデンサには直流は流れませんが、交流は流れます。周波数が高いほど容量性リアクタンスが小さくなり、電流が大きくなります。

容量性リアクタンスの測定 スミスチャート
図5. 容量性リアクタンスの測定 スミスチャート

コンデンサは 33pF とします。周波数 f が 145MHz のとき、容量性リアクタンス XC は、

XC = 1 / (2πf・C)
   = 1 / (2π x 145 x 106 x 33 x 10-12)
   = 33.3 [Ω]

45MHz では 107.2Ω、245MHz では 19.69Ω と、周波数が高くなるにしたがって容量性リアクタンスは小さくなっていきます。スミスチャート上では、容量領域の等レジスタンス円 (R=0) 上を時計方向に移動します。

容量性リアクタンスの測定 NanoVNA
図6. 容量性リアクタンスの測定 NanoVNA

NanoVNA での測定値は、…ああ、なんてこったい。
145MHz でのインピーダンスが 0.304-j4.00Ω、もう少し周波数が高くなると、リアクタンスが 0Ω になってしまいます。
つまり、自己共振しちゃってる、ってこと。
さらに周波数を高くすると、もうこいつはコンデンサではなくてインダクタに化けてしまうのです。理想と現実の差は大きい。

容量性リアクタンスの測定 リードを短くする
図7. 容量性リアクタンスの測定 リードを短くする

寄生インダクタンスの原因になるリード線を、できるだけ短くして取り付け直してみました。
インピーダンスが 0.389-j16.0Ω (@145MHz) と改善し、自己共振周波数は 209MHz になりました。

リード線は短くする。基本が大切なんですね。でも、こんなもんでなんとかなります?

誘導性リアクタンスの測定

誘導性リアクタンスの測定 回路図
図8. 誘導性リアクタンスの測定

コイルをつないでみます。

コイルは、直流ではショート状態になります。交流では、周波数が高くなるにつれて誘導性リアクタンスが大きくなり、電流が流れにくくなります。

誘導性リアクタンスの測定 スミスチャート
図9. 誘導性リアクタンスの測定 スミスチャート

コイルは 37nH です。周波数 f が 145MHz のとき、誘導性リアクタンス XL は、

XL = 2πf・L
   = 2π x 145 x 106 x 37 x 10-9
   = 33.7 [Ω]

45MHz では 10.41Ω、245MHz では 57.0Ω と、周波数が高くなるにしたがって誘導性リアクタンスは大きくなっていきます。スミスチャート上では、誘導領域の等レジスタンス円 (R=0) 上を時計方向に移動します。

さて、実際にインダクタンスを測定したいのですが、37nHなんていうコイル、ないです。コイルは自作するもの? どーすんのよ?
ソレノイドコイルのインダクタンス – 高精度計算サイトで計算してもらいました。すると、コイルの直径 7mm、長さ 8mm、巻数 3 で 37.5nH になるんだそうです。6mmΦ のドリルに 0.65mm の銅線を巻きつけると直径 7mm ぐらいになるので、3回巻いて長さを 8mm ぐらいにしてみます。え? 3回って、どこからどこまで数えるん?

誘導性リアクタンスの測定 NanoVNA
図10. 誘導性リアクタンスの測定 NanoVNA

なんとかそれらしいものをつくって測定してみたら、145MHz でインピーダンスが 1.71+j68.2Ω、インダクタンス換算で 74.9nH になりました。ん? これって巻数 4 になってません?

高周波回路、なぁ〜んもわからん。こんなんでいいんでしょうか?
まぁとにかく、進めてみましょう。

ダミーアンテナ回路

ダイポールアンテナの等価回路は RLC直列回路です。上で測定した各素子を直列につないで、ダミーアンテナ回路としてみました。

RLC直列回路

RLC直列回路回路図
図11. RLC直列回路
RLC直列回路 スミスチャート
図12. RLC直列回路 スミスチャート

RLC直列回路のインピーダンス ZL は、周波数を 145MHz としたとき、

ZL = R + j(XL - XC)
   = 75 + j(33.7 - 33.3) = 75 + j0.4 [Ω]

Mr.Smith での計算と丸め誤差がありますが、一致します。
リアクタンスがほぼ 0 ですので、この回路は共振しています。共振周波数 f0 は、

f0 = 1 / {2π√(LC)}
   = 1 / {2π√(37 x 10-9 x 33 x 10-12)}
   = 144.0 [MHz]

と、ほぼ目標値 (145MHz) です。

スミスチャートでは、周波数軌跡が中央の直線 (等リアクタンス円 X=0) と交差した点 (赤丸) が直列共振点(*4)です。
145MHzでのインピーダンスは ZL=75+j0.45Ω です。路線の特性インピーダンスが Z0=50Ω なので、電圧反射係数は Γ=0.20+j0.00 になります。

(*4) 周波数軌跡が容量領域から誘導領域へ時計方向に移動し、円の左側で X=0 と交差する点が直列共振点ですが、誘導領域から容量領域へ移動して、右側で交差する場合は並列共振しています。実際のアンテナは分布定数の関係で並列共振する場合もありますので、注意が必要です。

ダミーアンテナを作る

では、実際に RLC直列回路をつくってみましょう。共振周波数は 145MHz を目標とします。

抵抗は 150Ω を 2本並列にして 75Ω としました。コイルは手持ちの 0.65mm 銅線で自作します。直径 7mm、長さ 8mm、巻数 3 としました。コンデンサは、部品箱にあったセラミックコンデンサ 33pF。それぞれ、リード線はできるだけ短くし、RNC レセプタクル (50Ω) にはんだ付けしました。
そして NanoVNA で測定してみると、共振周波数は 110MHz ぐらい。共振周波数を高くしようとコイルを伸ばしてみたのですが、変化がありません。寄生インダクタンスが優勢なのでしょうか。

RLC直列回路の製作
図13. RLC直列回路の製作

そこで、コンデンサを 22pF に交換。コイルが何ターンなのかよくわからんのですが、とにかく巻数を減らして、NanoVNA で測定しながらコイルの長さを調整してみました。
ケースがインダクタンスに影響しているかもしれませんが、このあたりもどうするのがよいのか、よくわからんです。

RLC直列回路の測定 スミスチャート
図14. RLC直列回路の測定 スミスチャート

これを NanoVNA で測定したのが、図14 です。
スミスチャートの軌跡円 (黄) は、145MHz で等リアクタンス円 (X=0) と交差しています。軌跡円の左側で交差しているので、直列共振点を示しています。
また、リアクタンス (青) が容量性から誘導性へ移る位置 (X=0) にあり、これも直列共振点を示しています。

ということで、145MHz で直列共振する RLC直列回路ができました。抵抗 150Ω 2本並列、コンデンサ 22pF、コイルは直径7mm、長さ2mm、巻数 3 ぐらい? かなぁ。インピーダンスは 74.4+j0.0424Ω となりました。

反射係数を表示する

反射係数 Γ は、負荷抵抗 ZL を 75Ω、路線特性インピーダンス Z0 を 50Ω とすると、

Γ = (ZL - Z0) / (ZL + Z0) = (75 - 50) / (75 + 50) = 0.2

です。

RLC直列回路の測定 反射係数面
図15. RLC直列回路の測定 反射係数面

NanoVNA で表示してみましょう。
DISPLAY/FORMAT/>MORE/POLAR で表示されるのが反射係数面です。横軸が実数 (レジスタンス)、縦軸が虚数 (リアクタンス) で、スケールは外周が 1.0 です。
145MHz での反射係数は 0.194-j0.001 で、計算と一致します。また、周波数が低いとき反射波の位相が遅れ、高いときは進むようすがみてとれます。

スミスチャートのマーカー表示を MARKER/SMITH VALUE/Re+Im とすると、スミスチャートに反射係数の値が表示されます。この場合は 0.194-j0.00197 と有効数字 3桁の表示になりました。反射係数面では少数点以下 3位の表示です。

最後に、VSWR (Voltage Standing Wave Ratio: 電圧定在波比) についてちょっとだけ。
反射係数を Γ とすると VSWR は、

VSWR = (1 + |Γ|) / (1 - |Γ|)

で計算できます。NanoVNA では DISPLAY/FORMAT/SWR で表示することができます。
ちなみに、反射係数 Γ は反射波の位相も示すことができるベクトルですが、VSWR は反射係数 Γ の絶対値をとるスカラです。

昔はアンテナの調整といえば SWR計で VSWR を測定していましたが、いまでは反射係数が測定できる測定器が 1万円もしないで手に入るんですよ。浦島太郎感、強いです。

後記

ダミーアンテナと NanoVNA
図16. ダミーアンテナと NanoVNA

今回は、新たに購入した NanoVNA の使い方を勉強しつつ、ダイポールアンテナのダミーアンテナを作ってみました。高周波を扱う回路はあまり経験がないのでわからないことばかりですが、なんとかそれらしいものが作れたんじゃないかと思います。
NanoVNA が出力する高周波信号ができるだけ外部に放射されないように、ダミーアンテナはスチール缶に収納してみました。

次は、これをダイポールアンテナに見立てて、NanoVNA でのアンテナの測定をやってみたいと思います。

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