アナログ回路というと、なんだかむずかしい。増幅回路も、わかるようなわからんような。
そこで、増幅回路についてあらためて勉強してみようと思います。むずかしい理論は教科書みてください。ここでは、俺が電子工作でかんたんに遊べる程度のことをやっていきます。
前回は、エミッタ接地増幅回路の基本的な動作を確認しました。
今回は、この回路を安定させるための電流帰還バイアス回路について、勉強します。
固定バイアス回路
図1 は、前回実験したエミッタ接地回路です。
この回路では、ベース電流 IB の直流電流増幅率 hFE 倍のコレクタ電流 IC が流れることがわかりました。
この回路は、ベース電流 IB を流すための電圧 (バイアス電圧) を、ベース抵抗 RB だけでかける「固定バイアス回路」という方式です。
でも、温度などの要因で、ベース電流 IB が変動したり直流電流増幅率 hFE が変化したりすると、コレクタ電流 IC も変動してしまいます。特に直流電流増幅率 hFE はトランジスタごとに違うので、それぞれにコレクタ電流 IC が変わってしまうことになります。
デジタル回路なら、信号は 0 か 1 なので影響ないんですけど、アナログ回路ではそうはいかない。できるだけ影響が小さくなる方法を考えなくてはいけません。
電流帰還バイアス回路
ということで登場するのが、図2 のような「電流帰還バイアス回路」です。
この回路には、ベース電流 IB が無視できて、直流電流増幅率 hFE に関係なく、コレクタ電流 IC はエミッタ抵抗 RE で決められる、という特徴があります。なので、ベース電流 IB や直流電流増幅率 hFE が変動しても、コレクタ電流 IC には影響しない、と。
ベース電流 IB も直流電流増幅率 hFE も関係なくなってしまうって、前回実験した回路の立場はどーなるのよ (;´Д`)
以下、各抵抗の役割などを確認し、実験回路の定数を決めていきます。
ブリーダ抵抗 RB1、RB2
この 2つの抵抗には、ベース電流よりも十分大きな電流を流す、という役割があります。そうすることで、ベースに流れ込む電流は「ほとんど 0 に近いから無視する」ことにしてしまう。
じゃ、どれくらいが十分大きいといえるのか、だいたい 10倍ぐらいだとグーグル先生はおっしゃいます。
コレクタ電流 IC を 1mA 流すことにします。どうして 1mA にしたのかは、説明しだすといろいろややこしいのでパス。とにかくここでは 1mA としておきます。
2SC1815GR の直流電流増幅率 hFE は 200~400 なので、最小値の 200 として計算しましょう。
ベース電流 IB は、
IB = IC / hFE = 1 x 10-3 / 200 = 0.005 x 10-3 = 0.005 [mA]
になるので、ブリーダ抵抗 RB1、RB2 にはこの 10倍の 0.05mA を流すことにします。
それぞれの抵抗値の計算は、あとでやります。
エミッタ抵抗 RE
コレクタ電流 IC は 1mA です。
エミッタ電流 IE は、コレクタ電流 IC にベース電流 IB を足した値になります。が、ベース電流 IB は無視できるほど小さい (ことにした) ので、エミッタ電流 IE はコレクタ電流 IC と同じ 1mA となります。
エミッタ抵抗 RE に電流が流れるので、エミッタ電圧 VE が上がります。どれくらいの電圧にするのがよいのか、グーグル先生に尋ねると 1V ぐらいだとおっしゃいます。
なので、コレクタ抵抗 RE は、
RE = VE / IE = 1 / (1 x 10-3) = 1 x 103 = 1 [KΩ]
とします。
エミッタ電圧 VE が 1V なので、ベース電圧 VB は、ベースエミッタ間電圧 VBE = 0.6V を加えた 1.6V になります。
ベース電圧 VB が 1.6V に決まれば、ブリーダ抵抗 RB1、RB2 の値が計算できますね。
ベース電流 IB は無視し、ブリーダ抵抗 RB1 と RB2 には同じ電流 IRB = 0.05mA が流れるものとします。電源電圧 VCC = 5V とすると、
RB1 = (VCC - VB) / IRB = (5 - 1.6) / (0.05 x 10-3) = 68 x 103 = 68 [KΩ] RB2 = VB / IRB = 1.6 / (0.05 x 10-3) = 32 x 103 = 32 [KΩ]
俺の部品箱には、抵抗は E6系列しかないんで、RB2 は 33KΩとしました。
コレクタ負荷抵抗 RC
コレクタ電流 IC は 1mA で、コレクタ負荷抵抗 RC に流れ、電圧降下します。
出力電圧 (= コレクタ電圧) VOUT は、電源電圧 VCC = 5V からエミッタ電圧 VE = 1V を引いた値の中間ぐらいにしたい。なので、コレクタ負荷抵抗 RC での電圧降下 VRC を 2V にして、出力電圧 VOUT は 3V としましょう。
つまり、図3 のように、コレクタ負荷抵抗 RC の電圧 VRC = 2V、コレクタエミッタ間電圧 VCE = 2V、エミッタ抵抗の電圧 VRE = 1V というふうに電圧を割り振る、ということ。
コレクタ負荷抵抗 RC は、
RC = (VCC - VOUT) / IC = (5 - 3) / (1 x 10-3) = 2 x 103 = 2 [KΩ]
E6系列から、2.2KΩとしました。
電流帰還バイアス回路をつくってみた
各抵抗の定数が決まりましたので、じっさいに回路をつくってみました。
図4 の各部の電圧は、テスタによる実測値です。電流値は電圧と抵抗値から算出した値です。
コレクタ負荷抵抗 RC による電圧降下 VRCは、
VRC = VCC - VOUT = 5.06 - 3.03 = 2.03 [V]
なので、コレクタ電流 IC は、
IC = VRC / RC = 2.03 / 2.2 x 103 = 0.92 x 10-3 = 0.92 [mA]
になります。
エミッタ電圧 VE = 0.92V なので、エミッタ電流 IE は、
IE = VE / RE = 0.92 / 1 x 103 = 0.92 x 10-3 = 0.92 [mA]
で、コレクタ電流 IC と同じです。コレクタエミッタ間電圧 VCE は、
VCE = VOUT - VE = 2.11 [V]
ベース電圧 VB = 1.53V なので、ベースエミッタ間電圧 VBE は、
VBE = VB - VE = 1.53 - 0.92 = 0.61 [V]
このトランジスタの直流電流増幅率 hFE は、前回の固定バイアス回路の実験で 248 だとわかったので、ベース電流 IB は、
IB = IC / hFE = 0.92 x 10-3 / 248 = 0.0037 x 10-3 = 0.0037 [mA]
ほとんど 0 に近いから、計算上は無視した、ということで。
だいたい計算どおりになりましたね。そして、このときの各部の電圧、電流が「動作点」です。
「電流帰還」とは
「電流帰還」とは、出力側の電流の変化を、入力側へ帰還 (フィードバック) している、ということ。
なんらかの要因でコレクタ電流 IC が増加すると、エミッタ電流 IE も増加しますので、エミッタ電圧 VE が上昇します。すると、ベースエミッタ間電圧 VBE が減少します。ベースエミッタ間電圧 VBE が減少すると、ベース電流 IB が減少します。ベース電流 IB の減少はコレクタ電流 IC を減少させる方向に働き、結果的にコレクタ電流 IC の増加分が相殺されることになります。
つまり、コレクタ電流 IC の変化がベース電流 IB にフィードバックされて、コレクタ電流 IC を一定の値に保とうとする動きが生ずる。これが「電流帰還」ということ。こうして「動作点」が安定に保たれるのが、「電流帰還バイアス回路」です。
後記
長くなったので、ひと休み (^_^;)
今回は、電流帰還バイアス回路をつくって、各部の電圧と電流を確認してみました。ほぼ計算通りの回路にはなりましたけど、これだけではまだ、なにが何やら訳わかりません。
忘れそうになってしまいますが、いまつくっているのは増幅回路です。入力 VIN になにかしらの信号を入れたら、そいつがどうなって出力 VOUT からでてくるのか。増幅回路なんですから、入力した信号が「増幅」されて出力されるはず。それを試してみないといけません。
次回は、この回路でほんとうに増幅できるどうかを確認しましょう。そして、増幅率とか、入力インピーダンスとか、そんなこともあわせて勉強してみようと思います。